勢いづく権威主義国家の指導者たち

危機に瀕しているのは資本主義だけではない。民主主義への信頼も揺らぎ始めている。米国をはじめとする世界の自由民主主義国がコロナ禍への初期の対応に失敗したことは、世界各地の反民主主義勢力を勢いづかせている。国民に自由を与える民主主義ではコロナ禍と闘えないのではないか。国民のそんな恐怖心を利用して、ハンガリーのオルバーン首相をはじめとする独裁的な指導者たちはコロナ禍を口実にますます人権弾圧を強めている。

コロナ禍や気候変動が起きたのは、人間が分を超えて際限ない経済成長を追い求めたからだ。これからは脱成長で、環境に配慮した慎ましい暮らしをしなければならない。グローバル化と自由市場経済は破綻した。民主主義は強権体制に敗れた。どうやら、これが今を時めく知識人の最先端の意見であるようである。

データは「楽観主義」を支持している

だが、ちょっと待ってほしい。人類は決してコロナ禍で全てを失ったわけではない。悲観的なレトリックに溺れるのではなく、冷静に事実を見てみよう。コロナ禍は確かに大惨事である。2021年7月現在、新型コロナウイルス感染症により世界で400万人以上が亡くなり、現在も犠牲者は増え続けている。とはいえ、新型コロナウイルス感染症は人類がこれまで直面した最悪のパンデミックではない。人類の歴史はこれまで常に疫病との闘いの歴史であった。図表1は、人類が過去に直面した主要なパンデミックとその死亡率、死者数の推計値を示したものである。

グローバル化も資本主義もなかった古代や中世のパンデミックの死亡率は、19世紀以降のグローバリゼーションの時代のパンデミックとはけた違いである。当時の人口は現代よりも遥かに少なかったにもかかわらず、コロナ禍を上回る死者数を出したパンデミックが何度も発生している。