「ブルシット・ジョブ」(クソどうでもいい仕事)という言葉がSNS上で話題になった。なぜ働くことに違和感を抱く人が増えたのか。NHKエンタープライズ、エグゼクティブ・プロデューサーの丸山俊一さんは「その問題を解く鍵の一つは、マルクスの『資本論』にある」という。丸山さんの著書『働く悩みは「経済学」で答えが見つかる』(SB新書)から、「マルクス先生」と「アライさん」の問答をお届けする――。
オフィスで女性従業員を叱る上司
写真=iStock.com/DragonImages
※写真はイメージです

転職で給料が倍になったアライさんの憂鬱

「マルクス先生、革命の夢はひとまず置いて。もうちょっと実践的なこと、聞いていいですか?」

最近外資系IT企業にコンサルタントとして転職をしたというアライさんが切り出した。転職で給料が2倍になったというみんながうらやむようなアライさんだが、その顔色はそこまで明るくは無いようだ。

「お給料がアップしたのは素直に嬉しいんですけれども、違和感があるんですよね。自分自身はまったく変わっていないのに、どういうことなんだろう? 結局のところ、自分が働いている、労働の価値って何なんでしょうか?」

マルクス先生の目が光った。

「その視点、いいですね! まず、私の価値についての考えをお伝えしましょう。商品の価値……、実は価値には二種類あるのです!」

「まずは使用価値。これは人間にとって役に立つことに基づいている価値のこと、その商品本来の性質に基づく価値ですね。たとえば、腕時計の使用価値なら、腕につけていればいつでもどこでも時間を教えてくれることだし、メガネの使用価値は、目が悪い人でもそれをかければ見えるようになること。当たり前のようだけど、大事なそのモノ本来の価値のことですよね」

「しかし、それとは別の次元にもう一つ。交換価値というものがあるわけです。その商品を生産するのにどれくらい労働時間が必要であったのかによって測られるもので、他のものと交換するための価値です。このように、モノの価値には、それを使用することによって実感できる価値と、他の何かに交換した時に多くの場合お金の額で知る価値があるのです!」

2つの価値を生み出す資本主義の「魔術」

「わかったような、わからないような……。で、その2種類の価値の話と僕の違和感の話はどんな繋がりがあるでしょうか?」

アライさん、マルクス先生の言葉に割り込み、最初の問いに戻す。

「そうでしたね。確かにあなたは転職で単価が二倍なったのかも知れない。しかしそれはあくまでお金という、交換価値のモノサシの上での見かけであって、あなたの労働の使用価値は、残念ながら変わっていないはずなのですよ、アライさん!」

「自分の使用価値は変わっていないのに自分の交換価値だけ倍になるって、なんだか悪いことをしているような気がしてしまいます」