※本稿は、柿埜真吾『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
「コロナ禍で資本主義は死んだ」のか?
2019年12月、中国から始まった新型コロナウイルス感染症が世界を襲うと、グローバリゼーションと自由市場経済の終焉を謳う論調が論壇に蔓延するようになった。2008年のリーマン・ショック以来、世界経済が停滞し相次ぐ危機に見舞われる中、10年前から次第に高まりつつあった自由市場経済への懐疑の声が今やどこに行っても聞かれる。新しい経済、コロナ後を語る知識人たちは、資本主義をもう埋葬し終えたような調子で話している。
テレビでおなじみの池上彰・名城大学教授の近著は、的場昭弘神奈川大学教授との共著だが、『いまこそ「社会主義」』と題されている。2人はキューバの医療体制やコロナ対策を絶賛し、池上氏は「あそこは〈中略〉キューバ革命で指導者になったフィデル・カストロのキャラクターもありますけれど、いわゆる暗さというものがない」と発言している(*1)。
高名な評論家の中野剛志氏も「コロナ危機後の世界秩序は、コロナ危機の下で社会主義化を決断し、実行した国が生き残り、社会主義化できなかった国が凋落する」と断言してはばからない(*2)。
空前のベストセラーとなっている斎藤幸平氏(大阪市立大学准教授)の『人新世の「資本論」』は、「気候変動もコロナ禍も〈中略〉どちらも資本主義の産物」(P. 278)だと断じ、脱成長コミュニズムを唱えている。
知識人たちが次々と社会主義に賛辞を贈る中、社会主義国も社会主義の有効性を喧伝している。2020年9月8日の演説で中国の習近平国家主席は、新型コロナ対策の成功を自賛し、「重大な戦略的成果が得られたことは、中国共産党の指導と我が国の社会主義制度の顕著な優位性を示した」と述べ、社会主義体制の勝利を誇示して見せた。