無視できない住民の「総意」

3地域は今後、選定した事業者と共同で国に提出する「区域整備計画案」を策定し、県議会やパブリックコメントによる意見募集などを経たうえで、来年4月28日までに国交省に提出する。

和歌山県の場合は、現在、クレアベストと共同で区域整備計画の原案を策定中で、11月末に完成させる。その原案を公表してパブリックコメントを募集。来年2月に和歌山市と県公安委員会の承諾を得たうえで、県議会に区域整備計画案を提示し決議してもらう。国交省への申請は4月中になる見通しだ。ほかの2地域も概ね同様のスケジュールとなりそうだ。

審査に当たっては、計画そのものの内容やギャンブル依存症対策に加えて、「きちんとしたプロセスを経ているか、住民のコンセンサスができているかどうかをみていく」(特定複合観光施設区域整備推進本部の前川企画官)方針だ。自治体としての「総意」が認められなければ“落選”の憂き目にあう可能性もある。その意味でも、反対派の活動を無視できないわけだ。

IR計画の見直しには「ポスト菅」が不可欠

反対派の最大の理由はギャンブル依存症増加や治安悪化といえるが、双日総研の吉崎氏は「依存症に神経をとがらせるのはパチンコや競馬など誰でもいつでもできる賭け事が野放し状態だったから。IR整備法に関連してすべてのギャンブルが対象の依存症対策が義務付けられたうえ、カジノは日本人の個人管理を徹底するので心配にはおよばないだろう」と楽観視している。反対派の中には「コロナ禍で状況が変わったのに(和歌山県は)何も検証しないで突き進んでいる」(豊田氏)と県に見直しを求める意見も少なくない。

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吉崎氏は、ポストコロナの時代に合わせていまからIR施策を見直すには、旗振り役を続けてきた菅前首相に代わる「ポスト菅」の存在が不可欠という。施設の規模を見直す場合はIR整備法や施行令など制度改正を伴うことになるため「時間的に絶対無理」(観光庁)といわれるが、見直すべき部分はほかにも多い。

高率の税制や納付金、10年の権利期間も有力事業者が撤退した要因とみられている。「コロナ後の世界経済のなかで、完成後実質5年程度で投資回収を見込むのは厳しい。横浜のIRから早々に撤退した米ラスベガス・サンズの判断は極めて合理的だった」(吉崎氏)。