このように、相手の見ている視点や物語(ナラティブ)を意識しながら共通点や解決策を一緒に考えるコミュニケーションを、「ナラティブ・アプローチ」と呼び、その考え方を紹介した『他者と働く~「わかりあえなさ」から始める組織論~(パブリッシング)』は人事の領域で大きな話題になりました。

「相手(上司や働かないおじさん)にも、相手が見えている景色や物語がある」ということを意識するだけでも、組織内のコミュニケーションはずっと円滑になります。

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上司を動かすの有効な手段

また、ボスマネジメントを使いながら「働かないおじさん問題」に対処する現実的な方法の一つとして、「役割分担(ロールプレイ)」が有効な場合があります。

残念ながら、上司はどんな無理難題でも対応できるスーパーマンではありません。「持ち味」というか「得意なスタイル」があります。そこを誤解して、「上司なんだから何でも解決すべき」と迫ってしまうと、上司自身が疲弊してしまいますし、あなたの意見を聴くのが面倒くさくなってきます。

部下としては、上司の「持ち味」を悪く言えば「道具」「ツール」として使いこなし、理想的な組織の状態を獲得する、ということになります。

部下も上司も間違いがちですが、「上司は偉い」「指示は常に上から」なわけではなく「上司は役割」「部下も役割」にすぎません。上意下達の指示命令ばかりでなく、「お互いに協力して問題を解決する」「部下が絵を描き、上司に演じてもらう」ことは不自然ではないです。

“承認欲求”に応えれば「働かないおじさん」も動き出す

例えば、営業方法を変える必要があるベテラン社員に対して、新任の上司が頭ごなしに説得しても反発されるケースがありました。

この上司は「じっくり話を聴く」スタイルは得意でも、「エネルギッシュにチームを引っ張る」スタイルは得意ではありません。ベテラン社員も、「何で新参の上司に指導されなければいけないんだ」というプライドが邪魔をして、素直に受容しきれない様子です。

その際、部下から「自分は同僚の立場で、今度の会議で営業方法に関する相談を投げかけます。対象のベテラン社員にアドバイスを言ってもらい、望ましい発言があったら、上司が上手に拾って具体化させる方向に持っていってください。意見や議論が混乱し始めたら、その際は途中でサポートしてください」と、事前に上司と作戦を練ってから会議に臨む形を取りました。

その結果、ベテラン社員も「自分が相談されて言ったアドバイスを基に、営業方法を変えていくことになった」ため、気持ち良く協力してくれました。