このように上司とある意味で「結託する」のは、あざといように感じられるかもしれません。

しかし、「それぞれが役割を演じきって成果を出す」ことが組織の存在する意味なので、対外的な活動だけでなく社内的な改善にチームプレイやそれぞれの持ち味を発揮することに、後ろめたさを覚える必要はないと考えています。

この事例でベテラン社員の言動が変化したのは、単に「上司と若手部下がうまく役割分担したから」だけではありません。

人間の根強い欲求である「承認欲求」を満たすことができた点が大きなポイントです。

人は何歳でも褒められたい

私がコンサルティングをしているケースでは、「ライフキャリアカーブ」というワークを行います。社会人になって以降の仕事人生を俯瞰して、「嬉しかった瞬間」「辛かった瞬間」など、気持ちの浮き沈みを曲線で描いてもらいます。

皆がライフキャリアカーブを描き終わると、グループワークを行います。

すると、50代のベテラン社員たちが、お互いに次のような発言をして目を輝かせる様子が見受けられます。

「あの時は上司から褒められて誇らしかった」
「お客さんが喜んでくれて、充実感を味わえた」
「若手にアドバイスをして、感謝されたことが忘れられない」

当然ですが、「他人に評価された」「他人に褒められた」という経験が、多くの社員にとって「嬉しかった瞬間」になっているのです。

ところが、ベテランと呼ばれる年代になると、だんだん褒められる機会が減ってきます。

「ベテランなんだから、できて当然」
「なんで目標が達成できないんだ」
「管理職は、部下を褒める立場であり、褒めてもらう立場ではない」

周囲の人間から発せられる言葉は、このようなものが多くなり、もはや褒められるどころの話ではありません。簡単に言えば「ご褒美」が無い状態で5年、10年と走り続けている人が少なくないのです。

大げさなくらい「感謝の言葉」を伝える

人間が社会的動物である以上、「年齢や役職が高くなったから周囲からの承認は不要」というわけではありません。「その組織の一員として、承認や称賛されること」は重要なエネルギーになります。

上司や同僚として、「働かないおじさん」と接する際に、「足りない点」だけに目を向けず「よくやってくれている点」「感謝したい行動」に目を向けることは大切です。特にベテランである程、「自分は長年会社に貢献してきた」「今の部署を支えてきた」というプライドもあります。

例えば、変えてもらいたい点があった場合、いきなり減点方式で「こうしてもらわないと困る」と指摘するのは効果が低いです。理由は簡単で、頭ごなしにダメだしをされて喜ぶ人はいないからです。これは、相手がおじさんであろうと、若者であろうと同じだと思います。