村上世彰「私はここ10年で、投資で大きな失敗を2つしました」

質問4【大きな失敗について】

【部員】村上さんでも大きな失敗をすることはあるのでしょうか?

【村上】今まで何度か大きな失敗をしたことがあります。ここ10年ほどの例としては2つ挙げられます。

まず、中国のマイクロファイナンス事業への投資。これは、元ゴールドマン・サックス・USのパートナーの投資家が取りまとめて始まったものですが、複数の投資家から資金を集めて中国で中小企業向け融資の銀行を作り、ある程度成長したところで株を公開させ、投資家はそのタイミングで資金を回収するという計画の投資案件でした。

私は2013年にこの案件に投資しましたが、当時の中国経済はリーマンショックから順調に回復し、独り勝ちしているようにも見えましたし、高い利回りの債券で運用できて、かつ上場してさらに大きな利益が得られる可能性があるのなら、かなり良い投資になると考えました。しかし、2015年から中国経済は急激に減速し、債権の焦げ付きが急に増えました。さらに、現地の運営者が債権の焦げ付きの比率を隠蔽して事態を悪化させるということもありました。結局この投資は大きな失敗に終わりました。

2つ目は2011年に行ったギリシャ国債への投資です。当時のギリシャは財政危機に陥り、ギリシャ国債が額面の半値以下に下がっていて、額面通りに償還されれば年率300%を超えるようなリターンとなる状況でした。仮にギリシャの財政が破綻して国債が満額償還されないとしても、他の類似ケースなどを参考に検討すると国外資産などを原資に3割程度は回収できるのではないかと考えました。満額償還されるケース、満額償還されないケースなどを様々にシミュレーションして計算すると、期待値は1を大きく上回るという結論になり投資しました。しかし、結果としてはシナリオ通りにはいかず、大きな損失になってしまいました。

このように大きな失敗はたびたびありますが、その都度できる限り検討した結果で、特に後悔はありません。ただ、「よく自分がわからないこと」に投資をするのは、期待値を正確に導き出すことができないので、やめようと強く思いました。

自分で直接状況を確認したり肌で感じることができて、意見を言ったり自分もネットワークの中である程度リスクをコントロールできるような案件や、通常の私の投資スタイルのように、会社側に改善策などを働きかけられるような案件以外はやるべきではないということを改めて感じました。

質問5【利食いや損切りのルールについて】

【部員】村上さん自身、利食いや損切りについてのルールはありますか?

【村上】私自身についていえば、いくらになったら利食い売りするとか、何%下がったら損切りするとか、そういう目標や基準は設けていません。

ただ、株を買う時に「会社がこういう状態になったらいいな」というイメージはあります。たとえば、たくさん保有している遊休資産をきちんと株主還元に使うか成長のための投資に使うなどして、資本効率の向上に努めるという状態になることです。そうなるとおそらく株は何倍かになっているだろうなというイメージはあります。そして、実際にそういう状態が実現したなと判断できる状況になれば売ります。

損切りについては、自分の投資判断が間違っていたということになれば、価格にかかわらず損切りします。

自分が最も得意とするバリュー株投資については、基本的には損切りは考えていません。その会社が現に優良な資産をたくさん持っているわけで、それが有効活用されるのをアクティビストとしていろいろと会社に働きかけながら待ちます。時間がかかっても、目標とする「上場企業のあるべき姿」になる見込みが高いと思える場合には、一時的に株価が下がっても、損切りはしません。

皆さんの投資でも、当初に考えていた良いイメージが実現できたら利食い売り、投資判断が間違っていることがはっきりして、今後の見込みが立たないのであれば損切り、ということでいいのではないかと思います。