経営の本質は「バランス」感覚にある
しかし、当時のユーザーにとって、その機能は「あれば良い」程度のものであり、例えば電池の持ち時間や通信料などもっと身近に解決されていない課題があったのです。
そういう意味では、この商品は「ユーザー視点で見た現在」を疎かにしたまま、「自社視点で描いた未来」に重心をかけすぎていたと言えるでしょう。
ここで言いたいのは、「ユーザー視点を忘れるな」という紋切り型のメッセージではありません。「自社視点で描く未来」というのは、スティーブ・ジョブズの例を引用するまでもなく、時として大いなるイノベーションを生み出します。しかし、同時にその地点にユーザーを導くためには、やはり「ユーザーの目の前に立ち塞がる課題からの解放」がセットで準備されるべきなのです。
ファイアフォンは、そのバランスがわずかながら欠けていた、という事例なのでしょう。
アマゾンがファイアフォンの失敗に挫けずに、すぐさまアマゾンエコーという商品を出す姿勢は、この「言語化しにくいバランスの取り方」を、怪我をしながら学んでいるように見えなくもありません。
後日談はいくらでも語れます。しかし、日々大きな変化が矢継ぎ早に起こる今、傷を負いながらも前進しようとする企業の中にこそ、この微妙なバランスの取り方のヒントが見出せるのかもしれません。