なぜファイアフォンは失敗したのか
翌10月、アマゾンは第3四半期決算を発表し、ファイアフォン関連の損失として1億7000万ドルを計上するとともに、ファイアフォンの在庫8300万ドル分を保有していることも明らかにしました。計算上では、この段階で数十万台のファイアフォンが売れ残ったことがわかります。損失計上処理ということから、アマゾンは発売して3カ月後のこのタイミングで、公にファイアフォンの失敗を認めた形になりました。
そして、もはや話題にも上らなくなった2015年9月というタイミングで、アマゾンはファイアフォンの販売中止を公表します。その販売期間はわずか1年。当初の大々的な発表とは裏腹に、市場に注目されないままの、ひっそりとした終幕となりました。
では、なぜファイアフォンは失敗したのでしょうか。それは端的に言えば、ユーザーがスマートフォンに求めるものとのズレがあったということにあるでしょう。
アマゾンの「買い物をよりシームレスにする」「世の中全てをショールーム化する」という野望は、ユーザーには受け入れられませんでした。
斬新な「世の中ショールーム化計画」
ユーザーにとっては、スマートフォンにおける「買い物」の位置付けは、その他多くの機能のうちの一部分でしかありません。もはや1日のうちで最も多くの時間を共にしてると言っても過言ではないスマートフォン。そのスマートフォンで買い物が少し便利になったからといって、簡単に買い替えるでしょうか。
もちろん、アマゾンの視点に立った際、自社サービスとユーザーをつなぐスマートフォンという大きなミッシングピースを埋めたいという課題意識は理解できます。スマートフォンを起動させ、アマゾンのアプリを立ち上げ、キーワードを入力して注文する(さらにデジタルコンテンツの場合は、アプリからサファリなどのブラウザに移行してから注文する)という何重にも存在するステップから解放されたい、というユーザーの声はアマゾンにとって切実な課題でしょう。
さらに言えば、販売されている商品のみならず、世の中に存在する全てのものを注文可能にするという「世の中ショールーム化計画」という野望は数年経った今でも斬新に感じます。街中を歩いていて「欲しい」と思った瞬間にアマゾンで決済が済んでいる、という直感的な導線を作ることは、いまだにアマゾンが描く未来像でしょう。