(3)手書きレターを通じての交流

お客さんに商品をお届けするときは、手書きのメッセージカードを添える。アンケート葉書に回答したお客さんの誕生日には、お祝いの手書きのレターとプレゼントが届く。それに対して、お客さんからも感謝の手紙が毎日届く。手触り感たっぷりのお客さんとの交流が行われている。

徳武産業の工夫からは、いくつかのことが教えられる。

第一に、「観察~試作品づくり」のやり方。お客さんに会い要望を聞き、ときにはお客さんの立ち居振る舞いを観察する。そして、お客さん自身も気がついていない隠れたニーズを取り込む。そのやり方の効果は高い。お客さんの行動観察を通じて次々に試作品を作り、それにより製品の完成度を上げていく。お客さんが靴に対して持っているさまざまなアイデアやインサイトが、同社の商品企画の中核にある。

第二に、定番化のシステム。お客さんのニーズに徹底的に応えるべく、一人一人の仕様に会わせた個別対応が重要な役割を果たす。同社には、車いすの少年のために靴を作った話など、個別対応の話がいくつも出てくる。個別対応への熱心な取り組みは、同社の企業理念が形になったもの。それは、それにとどまらず、定番化手法という戦略に昇華する。この「個別対応~定番化」の手法を通じて、余分な調査費用をかけなくても、ニーズは自然に集まってくる。

最後に、事業における「義」の意義。お客さんとの心の交流、そこで生まれる感動が、組織の原点にあり、それが組織に勢いをつける。「利」を得るために企業を興すのではなく、世のため人のためという「義」によって企業を興す。その「義」は、「理」に姿を変え、「理」の実践が生まれる。造語だが、義があって理がある。「先義後理」である。「利」はそこに生まれる。

先義後理は、経営者もお客さんも、そして従業員も幸せにする。

※すべて雑誌掲載当時