丁寧な個別対応が生む高いマーケティング効果
(1)パーツ(部品単位)のオーダー
「片足でも販売する」ことが、この事業における不可欠の方策だと考えたが、その考えをさらに発展させて、仕様をカスタマイズして購入できるようにした。いろいろなカスタマイズが可能である。
(片方だけ、足が腫れていたり、リハビリで足に装具をつける必要があったりする人に向けた)片足だけのサイズ特注。(足の長さが違っている人のための)靴底の高さ変更。(車いすで足こぎをされる方のための)ゴム底への変更。寒冷地仕様としてスパイク付きへの変更。幅広靴のために足囲変更。
ベルト留めの靴については、甲高・幅広・腫れ・むくみに対応してベルトの長さを変更。さらに、利き手に合わせた(あるいは、片手しか使えない人のために)、ベルトの開閉方向を左右に変更可能。ベルトも、折り返し仕様やループ付きに変更できる。
靴にネームを入れることもできる。ありそうなサービスだが、筆者には大事な気遣いに見える。というのは、昔、施設を訪問したときに、入所者の方々の履き物にマジックで名前が書かれているのを見て、なにやらもの悲しさを覚えたことがあるからだ。「小学生でもあるまいし、何十年も生きてこられた方の尊厳が消えている」と、そんな思いがしたことを思い出したからだ。
(2)定番化
パーツオーダーは、オーダーごとに値段が付いた個別注文になる。製品を選択し、調整個所を確認し、専門注文用紙で注文する。それを生産・加工して原則、2週間以内に出荷される。靴底の高さの調整だと、1500円から3600円程度の調整料。ベルトの長さの調整なら片足で1500円。右利きの人のためにベルトを右開きにすれば、同じく1500円(すべて税抜き料金)。
これらのパーツ調整については、すでに一部定番化されている。足囲調整である。3Eが標準で、それをベースに5E、7E、9Eと揃う。同社は、個別対応の注文を受ける中で、注文が重なってくる部品調整については、こうした形で定番化する。
パーツオーダーの個別対応の注文を受ける中で、要望の多いパーツ調整は定番化することでコストが下がるだけでなく、顧客の利便性も向上する。定番化になれば、同社のカタログ「あゆみ」にそのことが掲載される。一つの個別の部品調整の背後には、つねに何倍、何十倍もの需要があるのだ。
NHKの“ルソンの壺”で、同社の経営が紹介されたとき(2011年9月18日放映)、司会者の方が「ふつうの企業であれば、多額の市場調査費を使って手に入れるデータを、個別受注のやり方でもって手に入れている」と言っていたが、その通りである。