韓国人は欧州で主役を勝ち取っている

だが、それは決定的な問題ではないはずだ。というのも、「キャストに日本人の名が含まれる公演には、まれにしか出会わなかった」と書いたが、韓国人や中国人の名は頻繁に見たからだ。とりわけ韓国の歌手は、ヨーロッパの主要歌劇場の公演なら、1人や2人、配役されているのが当たり前で、主役への抜擢も少なからずあった。

ほんの一例を挙げてみよう。2018年4月30日にスイスのチューリッヒ歌劇場で鑑賞したヴェルディ『ルイザ・ミラー』。ウルム役にウェンウェイ・チャン、ラウラ役にソヨン・リーと書かれ、ともに韓国人だ。

ニューヨークのメトロポリタン歌劇場は毎年、世界にライブビューイングを配信している。2015年10月、日本の映画館でも上映されたヴェルディ作曲『イル・トロヴァトーレ』の主役は、ヨンフン・リー。やはり韓国人である。

ニューヨークにあるメトロポリタン劇場は、世界最大級のオペラハウスとしても知られる。(写真=Ajay Suresh from New York, NY, USA/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

つまり、日本人と骨格の構造が近い東アジアの歌手たちは、かなり活躍できているのだ。人口が多い中国の歌手は措くとしても、人口が日本の半分にも満たない韓国の歌手が、日本人の何倍も起用されている以上、日本人に骨格以外の原因があると考えるべきだろう。

他国に比べ圧倒的に低い留学志向

ドイツへの長期留学経験がある女性歌手は、日本人留学生の特徴をこう指摘する。

「日本人は内向きで、思い切って留学しても、与えられた課題をこなすだけで、自分で課題を見つけられません。また、自己肯定感に欠ける人が多い」

コロナ禍を迎える前の2019年5月に発表された内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(13歳~19歳までの男女が対象)によると、「将来外国留学をしたいか」という問いに、短期留学も含めて「したい」と答えたのが、日本人は32.3%なのに対し、韓国人は65.4%と2倍以上だった

この意識の差は、たとえば、アメリカの大学に通う留学生数からも裏づけられ、韓国人は5万人を超えるが、日本人はその3分の1にも満たないのだ。

イタリアに留学中の別の女性歌手は、日本人が留学に消極的なのは、大学教育や専門教育のあり方も関係していると語る。

「オペラは欧米の文化なのに、音楽大学の声楽科の教員には留学経験者が必ずしも多くない。しかも、教え子が留学を希望とすると、『日本でできることがまだあるはず』と言って足を引っ張る教員も多い。自分の門下に留めておきたがる傾向があるのです。一方、韓国の音大は欧米で学んだ教員が中心で、学生にはできるだけ早いうちから本場で学ばせようという意識が強い」

日本で能楽を学びたいドイツ人学生に、「ドイツでできることがまだあるはず」と諭すような指導が、現実に行われているというのだ。