博物館をつなぐ森さんの大計画

ふたりは、計画を立てた。一般社団法人「路上博物館」を立ち上げ、日本中の博物館と提携して骨格標本を3Dデータ化し、それぞれの博物館オリジナルのミュージアムグッズを製作する。その売り上げの一部を標本の持ち主である博物館に還元する。

さらに、自分たちもレプリカの販売や出張展示を行い、一般の人たちに直接アプローチすることで、標本や博物館への関心を高める役割も担う。そうすることで、日本中の博物館と共存共栄を目指すというものだ。

「博物館の展示って、目で観ることしかできないでしょう。でも、観察に必要なのは目だけじゃない。触ってわかることも多いんです。それに、気になった展示にちなんだグッズが欲しくなる人も多いと思うんです。だから僕は、その博物館の標本の骨格レプリカが手に入ったらいいよなと思いました。レプリカを触りながら展示を観れば理解が深まるし、ほかの博物館の標本のレプリカと比べて違いを探すのも楽しいんですよ」と森さん。

写真=筆者撮影
インタビューに答える森さん

例えば、と言いながら、上野動物園にいたジャイアントパンダのホァンホァンとその娘、トントンの骨格の違いを説明してくれた。

「パンダは竹や笹を食べますが、もともと肉食の系統なので歯にすり潰す機能がなくて、パキパキ押しつぶすだけだから、ぜんぜん消化できなくて8割がウンチになって出ちゃうんです。それで、必要なエネルギーを確保するために、1日10時間も咀嚼そしゃくしています。ホァンホァンは野生由来だったから、頭骨をまっすぐ前に向けると、口が下を向きます。恐らく、10時間、下を向いて食べていたからでしょう。動物園で生まれ育ったトントンは、口が前を向きます。理由はわかりませんが、いいエサをもらって10時間も咀嚼する必要がなかったからだと僕は推測しています。こういうことを考えるの、楽しくないですか?」

森さんの解説を聞いて「めちゃくちゃ面白い!」と興奮した僕は、齋藤さんが指摘するこのビジネスの発展性にも納得できた。

「この博物館のこの標本という形で、レプリカを揃えて楽しいという価値が拡がる可能性がありますよね。しかも、骨のレプリカなら言語を超えて世界に通じるし、水族館や動物園にも拡げられる。それぞれのオリジナル商品を売ることで博物館同士や博物館と動物園、水族館が競合しなくていいビジネスなのも大切です」

文化庁のデータによると全国に博物館は5738館あり(2018年)、入館者数は年間30万人を超える。また、日本動物園水族館協会の統計では、水族館と動物園に年間で合計7000万人が訪れている。唯一の無二のミュージアムグッズを展開するのに魅力的な市場でもあった。