出世に影響するとなれば勉強するしかない

だがここに来て、習近平氏は本気でこの教育を浸透させようとしている。社会主義教育は小学校の授業にも根を下ろそうとしており、前述の教材指南はその意義を「党、国家、社会主義を愛する種を若い心に植えること」だと示している。

背景にあるのは、来年開かれる第20回中国共産党全国大会だ。加々美名誉教授は「3期目の続投が確実と見られる習近平氏が長期政権を安定させるために、毛沢東死後の最高指導者だった華国鋒元首相(在任1976~80年)以降、指導者たちの誰もがやらなかった『社会主義教育』を、習近平氏が40数年ぶりに持ち出してきた」と語っている。

長年の「不人気科目」が、一転して「重要科目」になろうとしているのは、中国の大きな転換点を示すひとつの現象だが、少なくともこれからの中国の若者に与える影響は小さくないものと思われる。

「社会主義教育は進学や就職に影響しないこともあり、学生たちはせせら笑っていられましたが、習近平氏はこの『社会主義教育』を教育の中核に持ってこようとしています。今後は出世に影響し、また社会的地位を高める上で極めて重要な意味を与えるともなれば、誰もが必死になってこれを勉強するでしょう」(加々美氏)

習氏の野望は「自分の思想を世界に輸出する」

過去の歴史を振り返れば、「毛沢東思想」が指導理念として党規約に加えられたのが1945年の第7回党大会でのことだった。それにさかのぼる1941年、毛沢東は「われわれの学習を改造する」などの報告を行い、反対派を粛清するための「整風運動」を起こした。まさに1940年代は毛沢東がその絶対性を確立させた重要な時期だと言える。

習近平氏もこの70年数前の“いつか来た道”をたどる。同氏が現政権の座に就いてからわずか1年で“毛的色彩”が強まり、「党員たちは『習近平思想』について、毎日のようにアプリで勉強するようになった」(浙江省出身の鄭さん)。学習強化の目的が、国内における習氏自身の絶対化と揺るぎない地位の構築にあることは明白だ。

中国の歴史学者である程映虹氏は、論文で「毛沢東の目的の1つは毛沢東思想を世界に輸出し、世界革命を起こして帝国主義を打ち負かすことにあった」と述べているが、この血脈と執念は習近平氏にも受け継がれている。

これほどに習近平氏が思想やイデオロギーにこだわるのはなぜか。国内的には、経済成長の鈍化を背景に、党の正当性を強調し求心力にしたいようだが、一方で対外的な意図も見え隠れする。

そこには、「自由」や「民主」という価値観を世界に広めようとした西側諸国に対抗すべく、「習近平思想を世界に輸出する」という目論見があるのではないか。3年も待たずして1億人を超えるであろう中国共産党党員こそが、そのための手足になることは間違いない。

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