党員になったのは「就職に有利だから」
一方、弁護士の李さんによれば、「部下の党員たちからは、党への強い憧れはそんなに感じられない」という。
「党員になれば得をするから、というレベルですね。『君はなぜ党員になったの?』と聞くと、たいてい『履歴書に党員と書くと就職に有利だから』と答えます。『党員は勧善懲悪・品行方正』というイメージが強いので、採用する側も欲しがるし、誰もがなれるというわけではないから箔づけになるのでしょう。中国では、仕事と政治が密接に関わっているので、一般企業にとっても党員の存在は都合がいい。言ってみれば、誰もがみな“自分の利益”のために党を利用しているんですよ」
李さんは部下の党員に「中国共産党の思想信条を説明してみてよ」「毛沢東思想、鄧小平理論、マルクス主義について君はどう思う?」などと、わざと質問したことがあったが、案の定、彼らはみな回答に詰まってしまった。「かろうじて答えられた党員もいたものの、子どもの頃に誰もが暗唱させられたような内容でした」と李さんは明かす。
コロナを戦った党員を英雄に重ねる若者たち
習近平政権が推進する“政治思想工作”に強烈な追い風が吹いた。それが、2020年1月からの新型コロナウイルスの感染拡大だった。1月23日に湖北省武漢市を封鎖するや矢継ぎ早に対策を打ち、76日間でほぼ感染拡大を封じ込めたことは周知のとおりだ。
崩壊した武漢市の医療施設には、医療チームが中国各地から送り込まれた。すると院内はたちまち秩序を回復させ、非常時における衛生管理体制が確立された。病床の不足には、野戦病院をモデルにして10日間で病院を建設するという荒業もやってのけた。住民の出入りの管理は、もともとあった居民委員会が徹底して外出を抑え込んだ。民主主義国家からすれば「考えられないロックダウン」だったが、国民の多くがこのやり方を支持した。
瀋陽市出身の張さん(仮名・20代)は「コロナ禍で見せた団結力に国民が感動したのは事実です。人民の団結は中国共産党のスローガンであり、党が命を救ったと思う人もいました」と語る。奇しくも今年は中国共産党創立100周年だが、このコロナ禍の闘いが生んだ“感動物語”が、習近平政権に“いっそうの輝き”を与える結果となった。
コロナ禍を経て、入党を志願する90后(1990年代生まれ、22歳~31歳)や00后(2000年代生まれ、12歳~21歳)という若い世代が増えているといわれているのは、こうした“感動物語”と無関係ではないだろう。入党資格は18歳以上だが、中国共産党新聞は「危険を顧みず最前線で力を尽くす党員たちを見て、20代の教職員、看護師、派出所の警察官などが、入党を志願している」と伝えている。