不確実性の高い競争市場で勝つために必要なこと
コロナ禍やデジタル化など、不確実性の高い競争市場に巻き込まれやすいとき、企業は既存の商品や市場にしがみつくのではなく、自社が有する知識やスキル、人材、あるいは資産など、多くの「ケイパビリティ(組織的能力)」を見つめ直し、それを再構築・再編成する能力が求められます。
まさにこれが、ティースが言うダイナミック・ケイパビリティ。この能力は、さらに「Sensing(感知)」「Seizing(捕捉)」「Transforming(変革)」という3つの能力に分解できるとされます。
すなわち、市場や環境の変化をつぶさに感じ取り(感知)、それをチャンスと捉えて既存の知識やスキルなどの応用に乗り出し(捕捉)、そして企業の内外の資源や組織を体系的に再編して「変わろう」とする(変革)スキル。これらの力を持つ企業こそが、変化が激しい時代でも持続的な競争優位を保てる、との考え方です。
ダイナミック・ケイパビリティを活用した企業として、よく例にあがるのは、富士フイルムやIKEA(イケア)でしょう。
富士フイルムは2000年以降、写真フィルム市場が大幅に縮小するという危機を体験しましたが、そこで自社のコア技術を見直し、強みであるフィルム処理技術を応用することで、医療や美容などさまざまな新市場に進出しました。
一方のイケアは以前、商品の仕入れや、家具を倉庫から取り出す人手(以前はスタッフが担当)に苦慮した時期がありました。これらをピンチでなく変化の好機と捉え、完全自社生産に乗り出したり、「客がみずから倉庫から商品を取り出す」モデル(倉庫型店舗)を取り入れたりすることで、時代に合った持続的な成長を成し遂げてきたのです。
発売直後に口コミが一気に広がった
デジタルサックスも、古くからのサックス専門家の一部は、「邪道だ」とみるかもしれません。ですが「いざ発売してみると、デジタルは想像以上にSNSやユーチューブと相性がよかった。一般の方々も、演奏をすぐネット上にあげられるので、口コミがアッという間に広がった」と宮崎さん。
まさにこれが、発売直後の「初速」の口コミ速度にもつながったのでしょう。
実績ある企業にとって、変化はリスクでもある。でも勇気を持って新たな一歩を踏み出すことで、次世代につながるまったく違う景色が見えてくることもあるのです。