業務停止命令の出た会社をお笑い芸人が宣伝している

YouTube上の広告は、「インストリーム広告」と「企業案件広告」に大別される。前者は動画内に自動的に差し込まれるもの。後者はユーチューバーが広告主から依頼を受け、自身の動画コンテンツとして作成するものだ。

この「企業案件広告」にも、問題企業の広告がはびこっている。登録者数が100万人を超えるようなYouTubeチャンネルでも、そのような企業の広告に協力している。

たとえば、あるお笑い芸人のYouTubeチャンネルでは、化粧品や健康食品を販売する「Libeiro(リベイロ)」の商品について広告動画を作成し、複数回にわたって公開している。ところが、このリベイロには、2021年3月1日に消費者庁から注意喚起が出ている。虚偽・誇大な広告を行っている、と認定されたためだ。

さらに2021年7月8日には、東京都から3カ月間の業務停止命令を受けている。

出所=東京都報道発表資料
リベイロへの業務停止命令(スクリーンショット) 赤線は筆者加筆

リベイロについては、消費者から行政へ相談が殺到していた。平成28年からの累計で、実に1498件もの相談が寄せられている。この状況も受けて、東京都はリベイロへ業務停止命令の行政処分を出したのだろう。

(出所=東京くらしweb

消費者から東京都への相談の内容は、解約条件に関するものが多かったようだ。前述の東京都のページ内に、消費者から寄せられた主な相談内容が載っている。「解約方法を容易に認識できるように記述していない」との記述があった。

赤線は筆者加筆(出所=東京くらしweb

京都消費者契約ネットワークも、リベイロに対して差止請求書を出している。この差止請求書によれば、リベイロは「1箱だけを500円で購入可能」であるように表現しながら、実際には「7箱を2万9900円で購入しなければならない契約」を結んでいたようだ。このような売り方では、行政に相談が殺到するのも当然だ。

このお笑い芸人は、行政から業務停止命令を受けるような「筋の悪い事業者」の商品を広告したことになる。また、業務停止命令期間中も動画を非公開にせず、いま現在も動画を公開し続けている。

問題のある事業者がユーチューバーに群がるワケ

さきほど例に挙げたお笑い芸人は、問題のある事業者の広告に協力した。では、この人物はとんでもない悪人なのだろうか。筆者はそうではないと考えている。

個人のユーチューバーは、取引先相手の信用度を調べる知識が無いことが多い。規模の大きい会社であれば、取引先の信用度を定期的に調べる。具体的には、外部の調査会社のリポートを購入する。代表的な調査会社としては、帝国データバンクや東京商工リサーチ、リスクモンスターなどが挙げられる。

ただ、そのようなリポートが販売されていることを知っている人は、多くはないだろう。会社の中で働き、総務部や経営企画室などの部署の仕事に触れないと、そのような知識を得る機会はほとんどない。こうした事情を前提としたうえで、筆者はさきほどの例も含めた「企業案件広告」を扱うユーチューバーには同情する。

しかし一方で、この状況を利用し、問題のある事業者は知識が乏しいユーチューバーに群がっている。きちんと信用度を調査する広告事業者には相手にされないような事業者でも、ユーチューバーは広告を請け負ってしまう可能性が高いからだ。

そのような事業者の広告を請け負ってしまう原因は、事業者の信頼性を判断する知識がなく、またその知識不足を埋める仕組みがないことにある。これは、ユーチューバーの人格に起因する問題ではない。業界構造としての問題だ。