また、「本物の欲求」だからといって、欲求がひとつでなければならないということもありません。たとえひとつの欲求が実現できなくても、気持ちが途切れないように、欲求の選択肢は多数あったほうがいいのです。

歳を重ねたときに、どうしても実現したい欲求が目の前に見えていれば、しかもそれらがたくさんあればあるほど、まだまだあなたの脳は「成長している」ことになるのですから。

無意識に動く「脳の自動化」は要注意

「本物の欲求」を見極め、持続させるためには、それに適した「脳内環境」が必要です。

私たちの脳は、ひとつの動作を繰り返し続けていると、何も考えなくても自動的にその動作を完結させる回路が頭の中に形成されます。外出するときに、ドアのカギを締めたり、エアコンを消したり、そうした行為は無意識のうちに行われているものがほとんどです。

こうした回路が形成されるプロセスを、私は「脳の自動化」と呼んでいます。

自動化は習慣的に行っているものなので、あれこれ考えなくても、体が勝手に動きます。ですから、あとで記憶をたどっても確実に実行したのかどうか、まったく覚えていないということがよく起こります(カギを締めたかどうかの記憶はなくても、たいていの場合、カギは締まっています)。

脳には「怠けグセ」がある

なぜ脳は、自動化しようとするのでしょうか。それは、人間が楽なほうに流れやすい生き物で、脳はより負担のかからない状態を選びたがるからです。つまり、脳には「怠けグセ」があるのです。

加えて、人は成長する過程で、脳が自動化するように徹底的に教育されます。計算問題や漢字の書き取りなどは、勝手に手が動いてしまうまで脳が自動化された(教育された)成果です。

自動化というものはいわば、私たちが生きていくうえでの知恵であり、社会生活を営むうえで欠かせないものですが、それにあまりに頼りすぎるようになれば、脳はやがて成長を止めてしまうでしょう。

「慣れ」は欲求の発生と育成を妨げる

成人していろいろな経験を重ねると、自分が今持っている知識や経験を使えば、ほとんどのことが「なんとかなる」ようになってきます。すると、人にはそれなりの自信が生まれ、ものごとを「慣れ」た方法で処理しようとします。