一律配分の賃上げが難しい理由
なぜ、一律配分の賃上げをしないのか。鉄鋼大手の労組関係者は「今時、社員に一律に配分してくれといわれて要求を呑む経営者はいない。たとえば熟練技術者の賃金が低いので上げてほしいとか、若手の賃金が他社に比べて低いからそこの部分を上げてほしいとか個別に積み上げて要求しない限り、賃上げ獲得は難しいのが現状」と、交渉の実情を明かす。
大手企業の賃上げは当然ながら中小企業の賃上げにも大きく影響する。賃金交渉は今後本格化することになるが、連合が集計した300人未満の企業(1360組合)の平均賃上げ率は前年比約2%、額にして177円アップしている(3月末現在)。大手とほぼ同水準の賃上げにとどまっている。
賃上げに渋い半面、さすがに賞与では高額回答が相次いだ。トップグループに満額回答(年間)したトヨタ自動車の253万円、ホンダの244万3000円、住友金属工業の226万円が並ぶ。とはいってもトヨタは昨年に比べて5万円ダウンしている。電機では松下電器などの業績連動方式を除いた企業では、シャープが前年並みの約170万円、三菱電機が10万円アップの約167万円、日立製作所も約7万円アップの約148万円となっている。
日本経済新聞社のまとめによれば、主要48社の賞与は前年比0.3%増の約191万円(3月24日現在)。連合調査では平均支給月数(914組合)は前年比0.14カ月増の5.14カ月(3月31日現在)と若干上がった程度にすぎない。
好業績にもかかわらず、なぜ賃金は上がらないのか。90年代半ばまでは会社業績がストレートに賃金に反映していたが、90年代後半以降はその関係が完全に崩れてしまっている。その原因は失われた10年の間に経営者に染みついたコスト意識、とりわけ人件費コストに対する敏感すぎる削減意識である。
いうまでもなく、多くの企業は90年代後半から人件費の削減に取り組んできた。正社員をリストラする一方、賃金の安い非正規社員で代替してきた。その結果、今では全雇用者に占める非正規社員比率は33%を超え、格差問題の温床になっている。もちろん、変化の激しい経営環境や熾烈なグローバル競争に対応するにはやむをえない面はあるにしても、その一方で正社員に対しても賃金抑制策を取り続けている。