ドイツでは、11%の賃上げも
財務省の法人企業統計調査によると、80年代は付加価値に対する人件費のウエートが高く、社内留保、配当金、役員報酬は極めて少なかった。ところが02年以降の景気回復期は配当金、社内留保、役員報酬が増加し、逆に人件費は減少をたどるなど付加価値配分の優先順位が完全に逆転している。
つまり“ない袖は振れない”のではなく、賃金原資の埋蔵金はしっかりと社内に存在するのである。一説には大手企業の人件費総額はここ数年約50兆円でほぼ横ばい状態という。一企業に置き換えれば、好業績にもかかわらず人件費原資が変わらないというのは、会社の儲けを社員に還元していないということだ。
今や成果主義賃金を導入している企業が8割近くに上るが、この制度は企業への貢献度に応じて処遇することで社員のやる気を引き出すというのが趣旨だ。仮にがんばって成果を出した社員に高い報酬で報いるとしても、会社業績に関係なく元の賃金原資が変わらなければ賃金抑制の仕組みと言われてもしょうがないだろう。
賃上げできない原因は交渉相手の労組側にもある。今回の獲得水準も前年並みなら要求水準も前年並みなのに加えて、伝家の宝刀であるストライキも辞さず、という覚悟もない。ちなみにドイツでは賃上げ交渉を企業別ではなく産業別労使で行うが、昨年春から交渉を続けているドイツ鉄道と労組はこのほど11%の高い賃上げで妥結。鉄鋼産業の労使交渉も5.2%で妥結している。
日本的経営の3種の神器といわれた企業別組合であるが、今では労使協調路線に走るなど迫力を失っている。欧米のように産業別組合に移行してもいいのではないか。
最近でこそステークホルダーとしての社員重視の姿勢を掲げる企業が増えつつあるが、こと付加価値の配分では株主重視の傾向が鮮明になっている。上がらない賃金が続けば、社員のモチベーションを徐々に低下させ、やがて企業競争力を失う事態にもなりかねない。