では味の素が目指すグローバル経営とはどういうものか。一言で言えば、財務、人事、ITなどの本社機能を強化。独立した各国の権限を本社に集約し、本社主導の地域・国の「分権」による連邦体制を構築する。人材マネジメントにおいては幹部人材の人事制度を統一し、世界中の拠点から優秀な人材を選抜・育成し、グローバルな異動による人材の最適配置を実現しようというものだ。

すでにその布石を打っている。経営人材を育成するためのプラットホームとして日本を含めた世界中で働く基幹人材のデータベースを構築。今年10月から基幹ポストの要件と誰がどんなポストに就いているかをグループ内に公開した。基幹ポストは約300。海外現地法人の役員の約140人とその下のゼネラルマネジャー(GM)をイメージしている。つまり、300人をグローバル経営人材として回していこうというものだ。

登録された基幹人材から経営人材候補として選抜し、育成する仕組みも出来上がっている。社長を委員長とする「グループ人材委員会」が選抜し、育成と配置を行う。

「選抜された社員の育成研修プログラムを用意している。動機づけを行うとともに能力開発に取り組むが、これを一つのアセスメント(審査)と位置づけている。そして海外の主要なポストに配置していくことになる。現在、140ある海外現地法人の役員ポストの65%を日本人、35%を外国人が占めているが、将来、外国人の割合を50%に引き上げていきたい」(西井人事部長)

グローバル人材のマネジメントに不可欠なのが、(1)基幹人材のデータベース化、(2)基幹職務および要件の統一、(3)育成・多国間異動施策の体系化、(4)報酬設計の透明化――の4つ。すでに一部を除いて今年から4つの運用を開始している。

10年にグローバルマネジメントを意識した職務グレード(等級)制を味の素単体に導入し、世界の基幹人材と要件をほぼ一致させた。

職務グレードは、本社スタッフの上位層、国内外関係会社の課長クラスのJG(ジョブ・グレード)3、本社の課長、国内外関係会社の部長クラスのJG2、本社の事業部門次長、国内外関係会社の役員・事業部長のJG1、事業部門長、人事・財務部長、国内外関係者のトップクラスのGEMの4つに分かれる。現地法人の社員も会社の規模や役割、責任の重さによって各グレードに位置づけている。

この中から選抜し、育成とアセスメントを経て主要ポストに登用していくことになる。選抜人材の具体的な育成研修は大きく2つあり、すでに今年から始まっている。一つはG1を対象にした「GGLS」(味の素グループ・グローバルリーダーシップセミナー)と呼ぶ研修。1回目を今年2月にスタートし、7月に終了した。参加者は6カ国25人。うち外国人スタッフは4人。単体の部門次長および国内外の関係会社役員・事業部長である。外国人が少ないのはまだこのクラスの層が薄いからという。

研修内容は、味の素グループの世界共通の理念である「味の素グループウェイ」の共有、続いてグループ経営者との対話、グローバル企業のケーススタディ、自社のグローバル課題についてのアクションラーニングと人材委員会のメンバーに対するプレゼンテーションで構成されている。講師は基本的に英語で話し、日本語の同時通訳がつく。最後の人材委員会に対するプレゼンでは、参加者のアセスメントも実施される。

もう一つがJG2を対象にした経営幹部候補生の「AGFLS」と呼ばれる研修。今年9月にスタートした研修には16カ国30人が参加した。こちらは日本人はわずか5、6人で残りはすべて外国人社員だ。