「JG1についてはこれから人材交流を進めていくことになる。JG2あたりを実際に配置し、職務を果たしてもらうということになると、たとえばある部門の公用語は英語にするとか、さらに細かい仕組みや制度を整えていかなければいけない。今の人事プラットホームの中で、300人のうち4、5人を選び、ローテーションで動かすのは十分可能だが、JG2の全員を動かすことについては、まだ全社的なコンセンサスがとれていない」と語る。

確かに、日本を含めて上司の部長に外国人が就くようになれば、会議や書類などは英語で対応する必要が出てくる。それでも、将来的に目指すべき方向であると西井人事部長は考えている。また、それはビジネスの環境とも大きく関わると指摘する。現在、売上高の67%を日本が占めるが、アジア地域が16%と日本とアジアで83%を占める。アジア地域は年功的人事制度など日本モデルが導入されているが、ビジネスも成長している。今、あえて制度を変える必要はないというわけだ。

制度を変革し、グローバルな人事異動が可能になるターニングポイントになるのは、アジア以外の領域での収益拡大モデルを実行に移すときだと指摘する。

「ラテンアメリカは人事制度が北米の仕組みと同じであり、アフリカは欧州企業の影響を受けている。つまり日本モデルが通用しにくい地域での売上高のウエートが30%を超えるのが見えたときは、人事制度を含めた新たな枠組みに全面的に転換する必要があると思っています」(西井人事部長)

逆に言えば、人事諸制度を含めて競合する欧米企業と遜色のない仕組みで統一化しなければ、人材獲得競争に後れをとることになるからだ。市場のパイをめぐる熾烈な競争と同様に、今、優秀なグローバル人材の争奪戦が世界規模で展開されている。日本人と同様に現地の優秀なスタッフにもグローバルに活躍するチャンスを均等に付与することなしにはモチベーションも上がらない。そのためにも人事の仕組みの共通化が不可欠となる。

じつはそうした動きを加速する事例もある。赤字続きだったグループ企業のアメリカ味の素冷凍食品の経営陣のうち、社長以外の開発担当者と販売担当者の2人を5年ほど前に日本人からアメリカ人に交代させた。その結果、日本人やアジア系の少数のコミュニティでしか売れなかった商品をウォルマートの全米2500店舗に納入。売り上げも拡大し、黒字化を達成した。

「日本より市場の大きいアメリカ市場で冷凍食品のビジネスで成功したのは画期的なこと。売れないといわれていた日本の冷凍食品の壁をアメリカ人幹部の2人がリーダーシップを発揮して見事に突破した。このことは、優秀な人材を確保し、定着させるには、ふさわしい仕組みが必要であることを気づかせてくれた」(西井人事部長)

戦略市場をどのように攻めていくのか。事業戦略にも増して重要なのが人材の最適配置である。世界市場でのビジネスの成長を図るには、真のグローバル経営以外に道はない。味の素は今、そう思い定めている。