従来の商業ルールに乗らないオキテ破りの曲

本稿では、楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」がどのように「すごく」て、かつ、どのように「ヘン」なのかを探っていく。彼らの初めての大ヒットであり、なんといっても映画のタイトルにもなった、バンドにとっても特別な曲である。

クイーン公式YouTubeの歌詞付き動画(英語と和訳の両方が掲載)(出所=Queen Official YouTubeチャンネル

この楽曲は、あらゆる意味で「破格」であった。まず人々を驚かせたのは、とにかく曲が長いことだった(5分57秒)。

6分近くある曲は今でこそめずらしくないが、当時このような前例はまずなかった。1975年のヒットチャートを見ると、いずれも3~4分程度が主流である。長すぎてラジオでもかけられないと、レコード会社の上層部はシングルカットを断固拒否したので、フレディが反対を押し切って友人のDJケニー・エヴェレットに音源を持ち込み、売り込んだエピソードは有名である。

エヴェレットは自分の番組でこの曲を繰り返しかけた。その結果、レコード発売前から店先に並ぶファンが現れ始め、テレビ放映後の爆発的ヒットを後押しした。

そして、この曲の長さはその特別な音楽構成にもよるものである。一曲の中に変調がいくつもある。いきなり始まる重ねられたアカペラ(パートA)、フレディのしっとりしたバラード(パートB)へと続き、しかし独特の喧騒に満ちたオペラ風(パートC)へとがらりと変わり、次にハードロック調ギターソロ(パートD)が続き、再びフレディのボーカル(パートB)へと戻り、終わる。つまり、この曲にはアカペラ(A)→バラード(B)→オペラ(C)→ハードロック(D)→バラード(B)という、異なるジャンルが共存しているのである。

普通は、イントロの次にAメロが入り、Bメロ、サビ、またAメロに戻り、Bメロ、間奏……などと続くものだ。もちろん楽曲のアレンジは無数に存在するが、標準的には、聴いている人が予定調和の安定感や安心感を覚えるよう構成されることが多い。しかし「ボヘミアン・ラプソディ」は初めて聴くものに「次」を予想させない。従来の商業的ルールにまったく従わないオキテ破りの曲なのである。

3曲別々に作ったものを合体させている

このような特徴的な音楽性について、ポピュラー音楽を専門とするチェスター大学准教授のルース・ドックレー氏はクイーンの他の一連の楽曲と共に「コンプレックス・ソング」であると分類する。

「コンプレックス・ソング」とは「複雑に入り組んだ曲」を意味し、日本語の「コンプレックス」(劣等感)とは無関係である。

「アンセム」――スポーツの場の応援歌のようにオーディエンスの参加を目的とした曲(たとえば「伝説のチャンピオン」〈We are the Champions〉や「ウィ・ウィル・ロック・ユー」など)とは異なり、込み入った仕掛けが曲を魅力的にしているタイプの楽曲を指す。

一曲の中に異なるスタイルが盛り込まれ、それらが一つの物語を構成している。そして実際、フレディは「ボヘミアン・ラプソディ」が、元々は3曲別々に作ったものを合体させたものだと発言している。「ザ・カウボーイ・ソング」と題された歌詞を、ブライアンや他の友人が見たという証言があり、どうやらその一部はクイーン結成以前のもののようだ。つまり、正真正銘のコンプレックス・ソングなのである。