信用が傾いても「異次元の高収益」を叩き出した

暗号資産取引所の経営は濡れ手で粟のビジネスだ。なぜなら取引マージン(手数料)は、資産の種類や取引量によって異なるが、だいたい取引額の2%から10%である。これは手数料が無料で、取引額の0.003%前後のスプレッドしか取れないFX(外国為替証拠金取引)に比べて、法外といってもいい水準だ。これに目をつけたのがマネックスグループで、事件で信用の傾いたコインチェックを36億円で買収した。

そして買収完了の10日後に発表されたコインチェックの前期(2018年3月期)の決算は売上高626億円、営業利益537億円という「異次元の高収益」(日本経済新聞)だった。

マネックスグループの直近の決算(2021年3月期)を見ると、税引前利益が前年比5倍強の213億円という好調ぶりだったが、グループの収益を強力に押し上げたのが、同グループが約99.5%を支配する子会社のコインチェックで、同時期に約139億円の税引前利益を上げた。

なお2018年にマネックスに買収された際、事件を引き起こしたにもかかわらず、コインチェックの筆頭株主でもあった和田晃一良社長は約16億円、大塚雄介COOは約2億円を手にし、同社に執行役員としてとどまり、以後3年間の累積利益の半分が旧株主に支払われるという「アーン・アウト契約」も結んだ。まさに濡れ手で粟の人生である。

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暗号資産の正体は「カジノのチップ」

そもそも暗号資産は何らかの価値があるものなのだろうか? これは筆者がかねがね抱いていた疑問である。今般上梓した『カラ売り屋vs仮想通貨』(KADOKAWA)の取材を通じて辿り着いたその正体は一言でいうとカジノのチップである。カジノがある限り(すなわち暗号資産で一儲けしたいと思っている投資家がいる限り)、暗号資産は交換価値を持つが、カジノがなくなれば、ただのプラスチック片になる。

黒木亮『カラ売り屋vs仮想通貨』(KADOKAWA)

暗号資産は「マイニング」によって生み出される。マイニングは、暗号資産の新規取引を「ブロックチェーン」と呼ばれる分散型台帳につなぐのに必要な計算作業だ。ビットコインの場合、10分ごとに取引をまとめて新たなブロックとして記録し、それをチェーンのようにつないでいく。

各ブロックには、①過去のすべての取引データを圧縮関数であるハッシュ関数を使って暗号化したハッシュ値(64桁など一定の長さの英数字)②新たにブロックに加える直近10分間に発生した未承認の取引データ(誰々が誰々にいついくらの量のビットコインを送金したか)、③①と②を新たなブロックとしてチェーンにつなげるのに適した、先頭に0が13から15個並ぶハッシュ値にするためのナンス(使い捨ての32ビットの数値でnumber used onceの略)、の3つが格納されている。