ビットコインの発案者は「マネーはデータである」という考え方を論文で唱えている。作家の野口悠紀雄氏は「これまでのビッグデータは、SNSや検索など、すべての人を網羅しておらず偏っていた。しかし、マネーのデータは、あらゆる経済活動にかかわるため非常に重要なデータになり得る」という――。
※本稿は、野口悠紀雄『データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
そもそも“マネー”とはいったい何か
マネーは、決済手段としてだけでなく、ビッグデータを収集する手段としても重要であることが分かってきた。最初に「マネー」と呼んでいるものが何を意味するのかについて、説明しておこう。これは、日常用語では「おかね」と呼ばれているものだ。
「マネー」という言葉を聞いて多くの人がすぐに思い浮かべるのは、日銀券などの「中央銀行券」だろう。しかし、現代の社会では、決済・支払い・送金等に中央銀行券が用いられるのは、少額の対面取引にほぼ限られている。離れた相手に対する送金や多額の支払いの場合には、銀行の口座振込を使うのが普通だ。したがって、「銀行預金」もマネーの一種とされている。
以上は、日本銀行の「マネーストック統計」が対象としているものだ。なお、これらは「通貨」と呼ばれることもある。また、日銀券と政府貨幣の合計を「現金通貨」と呼び、銀行預金を「預金通貨」と呼ぶ。
中央銀行券は中央銀行の負債であり、預金通貨は民間銀行の負債だ。現在では、残高で見ると、預金通貨の方がはるかに多くなっている。2021年6月末において、現金通貨が110.3兆円、預金通貨が862.8兆円だ(「M1」と呼ばれる通貨概念の場合)。