アメリカ政府は中央銀行の発行するデジタル通貨に消極的な姿勢をとってきた。だが、中国がデジタル人民元を本格化させる動きにあわせて方針転換しつつある。作家の野口悠紀雄氏は「これまでマネーは匿名だったが、デジタル化すればすべてのデータが政府に集まることになる。アメリカの動きは、そうした激変をにらんだものだろう」という――。

※本稿は、野口悠紀雄『データエコノミー入門 激変するマネー、銀行、企業』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

中国元と米ドル
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デジタル通貨の端緒となったFacebookの「Libra」

電子マネーによって、マネーの取引記録をデータとして活用できるようになったことは、様々な革命をもたらしている。まず挙げられるのが、大規模な仮想通貨で価値が安定した民間のデジタル通貨の登場である。その始まりが、2019年の6月、アメリカのSNS提供企業であるFacebookによって発表された「Libra」だ。

Libraは、ビットコインと同じような仮想通貨だが、いくつかの違いがある。最大の違いは、現実の通貨に対する価値が大きく変動しないことだ。こうしたものを、「ステーブルコイン」と呼ぶ。

ビットコインは価格が変動するため、投機の対象にはなったが、日常的な支払い手段には使いにくかった。ステーブルコインによって、仮想通貨が送金の手段に使えるようになる。

このため、規模が非常に大きい通貨圏が形成される可能性がある。Facebookの利用者は、世界で20数億人といわれる。仮にこれらの人々がLibraを使うことになれば、それによって形成される通貨圏は、世界のあらゆる国のそれを凌駕する。