中国政府はなぜ「デジタル人民元」に積極的なのか

中国は、CBDCである「デジタル人民元」の発行を計画している。4大商業銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)が仲介機関となる。利用者は、4大銀行のいずれかに保有している預金を取り崩して、自分のウオレット(電子財布)にデジタル人民元の残高を得る。

デジタル人民元は、すでに実証実験が何度も行なわれている。こうした過程を経て、かなり実用に近い段階になっていると思われる。将来は、貿易相手国などとの国際決済にも用途を広げる予定だ。すでに、タイやアラブ首長国連邦の中央銀行と研究事業を始めた。

中国政府は、デジタル人民元にきわめて積極的だ。なぜそれほど積極的なのか? 送金の効率化という点では、すでに電子マネーが広く使われているのだから、それに加えてわざわざ中央銀行デジタル通貨を発行する必然性は乏しい。デジタル人民元の発行によって、人民元の国際的地位を高めるのが目的だという見方もある。確かにそうしたこともあるだろう。

しかし、そうした目的ばかりではないと思われる。一つは、Diemに対抗する必要だ。これが中国でも使われれば、中国からの資本流出が生じる危険がある。その対策として必要だ。また、課税強化という目的もあるかもしれない。

国民一人一人の詳細なデータを管理することができる

しかし、真の目的は、国民の一人一人に関する詳細なデータを入手することにあるのではないかと思われる。これまでマネーのデータは、Alipayなどの電子マネーによって収集されてきた。Alipayを運用するAntグループは、それを用いて信用スコアリングを作成し、驚異的な成長を実現した。そのような貴重なデータを国家のもとに集めるというのが、デジタル人民元の重要な目的ではないだろうか?

中国はすでに2019年に「暗号法」を制定している。そして、最高クラスの暗号は国家が管理するとしている。これは、デジタル通貨によって得られる情報を国が管理することを狙ったものではないかと考えられる。

そうなれば、これまで民間の電子マネー運用者が独占していたマネーのデータが政府の手に渡ることになる。これによって中国政府の国内支配力は飛躍的に高まるだろう。それができれば、中国政府は、きわめて強力な管理手段を握ることになる。

もちろん、中国当局は、このような可能性については、一言も言っていない。むしろ、デジタル人民元では、少額取引については匿名取引が可能だと強調している。しかし、そうしたことが強調されるのは、真の目的を隠蔽しようとするためではないかと考えられなくもない。