ビットコイン発案者が唱える「マネーはデータである」

つまり、「取引内容を改竄できない記録に残す」ということが、ビットコインの送金なのだ。この過程においてやりとりされているのは、データだけである。つまり、「マネーはデータ」なのだ。

ビットコインの発案者であるSatoshi Nakamotoは、このことを、ビットコインの最初の論文である「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」(2008年)において、“We define an electronic coin as a chain of digital signatures.”(電子署名の連鎖を電子コインと定義する)と表現している。

この簡潔な文章の中に、「マネーはデータである」という本質が凝縮されている。つまり、正しい送金記録が改竄できない形で公表されれば、銀行システムに依存することなく、インターネットを通じて送金ができるのである。ただし、取引者の名前が分かってしまうと問題なので、暗号で保護するのだ。

中央銀行券は、匿名の支払い手段だった。だから、それをデータとして用いることはできなかった。銀行預金の口座振込は、原理的にはデータとして使える。

しかし、現実には、銀行は、そうしたデータを利用しようとはしなかった。マネーをデータとして利用するようになったのは、電子マネーになってからのことだ。

中国本土では、AlipayやWeChat Payのような電子マネーが非常に広く普及した。これによって、マネーの取引が詳細に把握できるようになった。

なお、これまでは用いられていなかった銀行のデータについても、銀行APIという仕組みを用いて利用しようとする試みが始まっている。

マネーのデータはなぜ強力か

これまでビッグデータとして利用されてきたのは、主として検索やSNS、マップなどから得られるデータだった。しかし、マネーのデータは、それらより詳細で正確だ。したがって、マネーのデータの相対的重要度が増すだろう。

まず、SNSのデータには数量化できないものが多いが、マネーのデータは数量化できているので、分析に使いやすい。また、すべての人がSNSで発信しているわけではない。SNSを使っているのは年齢的にいえば若い人が中心であり、高齢者はあまり使わない。若くても、検索エンジンやSNSやマップを使わない人もいるだろう。

つまり、これまでのビッグデータは、すべての人を網羅するものではない。偏ったデータであり、必ずしも社会全体を表すデータとは言えない。また、SNSから得られるデータは、経済分析に使えるとは限らない。