アメリカでもさまざまな目的で大麻が使用されていたが…

それにしても、米国はなぜ日本に対し、大麻を禁止するように指示したのだろうか。理由は簡単で、米国内で禁止していたからだ。

しかし、実は米国でも1937年に「マリファナ課税法(MTA=Marijuana Tax Act)」が制定されるまで、大麻はさまざまな目的で広く使用されていた。MTAは大麻の取引を登録制にして手続きを煩雑にし、法外に高い税金を課すことによって大麻の販売を禁止しようとした、実質的な「連邦大麻禁止法」だが、なぜ重税をかけようとしたのか。

その理由は後述するが、連邦政府は当時、大麻を法律で禁止するために必要な、説得力のある科学的証拠を提示できなかった。

大麻の有害性・危険性を示す証拠が十分に示されないまま、連邦議会にMTA法案が提出されたため、米国医師会(AMA)など医療関係者は強く反対した。

AMAの代表は連邦議会の公聴会で、「医療目的の大麻使用が乱用につながるという科学的な証拠はない。医療用大麻を合法的に使えるようにしておくことは、患者の権利として非常に重要である」と証言し、また、一部の医師たちは「依存性が低く、大きな治療効果が期待できる大麻の使用を禁止することで、人々の受ける損失は計り知れない」との抗議文を政府に送ったという。

さらに産業用大麻(ヘンプ)の生産者も成長が早くて手間がかからず、用途が広い大麻の栽培を禁止する法律の制定に対し、強く反対した。

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それもそのはずで、米国では1600年代から1800年代にかけて、大麻はずっと主要農作物だったのだ。合衆国初代大統領のジョージ・ワシントンや第3代大統領のトーマス・ジェファーソンが自らの農場で大麻を栽培していたのは有名な話である。

このように広く普及していた大麻を、当時の連邦政府はなぜ禁止しようとしたのか。その背景にはいくつかの理由が指摘されている。

大麻禁止は連邦捜査官の再就職支援に利用された

ひとつは、連邦捜査官の再就職支援の一環ではなかったかというものである。

1933年に禁酒法が廃止され、それまで酒の取締りをしていた連邦捜査官が失業のリスクにさらされたため、彼らに「大麻の取締り」という新たな仕事を提供する必要があったのではないかということだ(禁酒法は消費のための酒の製造・販売・輸送を全面的に禁止した法律で、1920年から1933年まで施行された)。

ふたつ目は当時、警察などの法執行機関のなかに広がっていたメキシコ系移民や黒人に対する人種差別と憎悪である。

米国では1800年代に産業用大麻が広く栽培されていたが、1900年代に入ると、精神活性作用の強い嗜好用大麻(マリファナ)がメキシコ人によって大量にテキサス州の国境地帯に持ち込まれ、小包郵便などで他の州にも送られた。

その結果、テキサス州の警官はこの状況を忌々しく思い、メキシコ系移民に対して激しい怒りや嫌悪感を抱くようになった。この人種偏見が法執行機関関係者の間に広がり、マリファナ課税法の制定につながったのではないかとの指摘である。