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日本の総労働時間は欧米に近づきつつある

家族との時間を楽しむには、いくつかの知恵が必要だろう。

私には男女合わせて3人の子供がいるが、私は子供と共通の趣味を持つことを心がけてきた。子供の趣味に嫌々付き合うのではこちらがつまらないし、子供たちに「仲良く過ごそう」と口で言うだけでは、子供たちが退屈してしまう。大切なのは、お互いが楽しめることを一緒にすることである。

息子が大きくなってからは、釣りとハンティングによく出かけた。フランスでは、約1000万人が釣りをし、約200万人が猟銃を持って狩りをする。両者とも人気のスポーツである。2人の娘は外食と映画が好きだったので、外食を兼ねて、100本以上の映画を見たはずだ。

さて、問題は妻との時間である。

日本人男性の多くは妻との会話が苦手だそうだが、わがフランス人男性は、むしろしゃべりすぎるほどよくしゃべる。とりとめのないことをあれこれとしゃべるだけだ。ただし、会社や仕事の話題は、必ずしも妻にとって興味のあるテーマだとは限らないことを念頭に置いておくべきだろう。

また、相手の同意を求めることを会話の目的としないことも重要だ。表面的な同意よりも、むしろ、仲が良ければこそ、異なる意見をぶつけ合うことができるのだと私は考えている。

ひとりの人間が大きく開花し成長していくためには、仕事だけではなく、文化に触れ、感性を磨き、旅をし、余暇を楽しむ必要がある。フランス人は常に、「自分でありたい」という思いを強く持っており、この点は、家族と接する場合でも変わらないのである。

大使の仕事は社交に重きを置くため、私の1週間のスケジュールは、昼食も夕食も会食で埋まっている。一方妻のほうも大使夫人としての公務で多忙なため、ふたり揃ってプライベートな食事をする機会は減った。

現在の私たち夫婦の状態を一言で表現すれば、フィギュア・スケートのペアのようなもの。普段は別行動を取りながら互いを補い合う。そして、ポーズを取るとき、つまりここぞという場面では一緒に行動する。

仕事で埋め尽くされ、妻と食事をする時間すらない今の生活を、私は“本当の生活”から遠いと思っている。

※すべて雑誌掲載当時

(山田清機=構成 kuma=撮影)