戦略的価格設定を可能にする「高い営業利益率」

一般的にBEVはバッテリーのコストが高く、ガソリン車に比べてかなり高価になってしまうのが普通だが、ポルシェはなぜこのような戦略的な価格設定ができたのだろうか。その理由はポルシェのアニュアルレポート(年次報告書)を見ればわかる。

2020年の営業利益率はなんと15.4%という高さなのである。フォルクスワーゲンブランドは0.6%、プレミアムブランドのアウディでさえ5.5%である。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

トヨタの2020年度(4~3月)の営業利益率は8.0%なので、トヨタと比べてもかなり高い。これでも2018年の17.4%よりも下がっている。ポルシェはタイカンを戦略的価格で発売できる余力があるのである。

加えて、性能が上がるにつれ価格を激しく吊り上げていくのはポルシェの常套じょうとう手段であり、最高性能版のタイカン・ターボSは、テスラ・モデルSの最高性能版である「プレイド」より6万ドルも高い設定となっている(加速性能はプレイドの方が上であるにもかかわらず)。

つまり、グレード間の価格差が非常に大きい。このため、タイカンであっても上位グレードの収益率はかなり高いと思われる。

積極的なEV化の裏にある長期ブランド戦略

このようにしてポルシェは、タイカンを戦略的価格で売り、台数を稼げるマカンもプラグイン化し、おそらくこれも戦略的な価格で売ることによって、CO2排出総量を大きく減らすことができるだろう。そうすれば、911をガソリン車の販売が完全に禁止されるまで、911の伝統的な魅力を保ちつつ売り続けることができるというわけだ。

その一方でポルシェは、その高い収益性を武器に、現在風力発電で作った水素とCO2から作るカーボンフリー合成燃料の開発を行っている。

資料⑥ Porsche to begin producing synthetic fuels in 2022

開発に成功し、大量生産することが可能になれば、将来的にも911は水平対向エンジンを搭載し、素晴らしい排気音を奏でる車であり続けることができる。ポルシェは電動化を積極的に進めているように見えて、本音ではゼロカーボン時代になっても内燃機関にこだわり続けようとしているのかもしれない。

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