ポルシェBEV成功要因①:商品企画
さて、高性能スポーツカーブランドであるポルシェのBEV、タイカンがなぜこんなに売れるのか。まず、第一の成功要因と考えられるのはその商品企画だ。
アウディのe-tronやメルセデスベンツのEQシリーズなどは、まずSUV的なプロポーションのモデルから導入した。SUV人気の高まりに加え、バッテリーを床下に搭載する関係からその車高の高さでSUVはBEVとして成立させやすく、合理的な判断だ。
しかしSUVでデザインの差別化を図るのは難しく、e-tronもEQシリーズ初のEQCもガソリンモデルのSUVとの差が一目ではわかりにくいモデルとなっている。
ポルシェ初BEVに課せられたブランドミッション
ポルシェは初のBEVを開発するにあたり、おそらくスポーツカーにこだわったと思われる。ポルシェのブランドアイコンは純スポーツカーの911だが、近年はSUV(カイエンとマカン)の販売が好調すぎて販売の3分の2を占めるに至っており、実質的にはスポーツカーメーカーというよりSUVメーカーとなってしまっているためだ。
911はリアオーバーハングに水平対向エンジンを搭載するというメカニズム上のユニークネスを持っており、それこそが911ファンがこだわるポイントである。それゆえ911をBEVとすることは困難である。
今後CO2排出量を減らすためにBEV化を進めざるを得ないポルシェとしては、将来的には911をブランドアイコンとして使い続けることができなくなるかもしれない。だとすれば、最初のBEVは新たなポルシェイメージを牽引できる車種とならなければならないと考えたはずだ。
そうなると、それがSUVというわけにはいかない。これ以上SUVメーカーイメージを高めるわけにはいかないからだ。新BEVは911とイメージが重なるようなスポーツカーでなければならない。
「ポルシェブランド」「先進・環境」イメージの融合を実現
ただし、新BEVにはもう1つ重要な役割がある。ブランド全体のCO2排出量を下げるというミッションである。そのためにはある程度以上の量を売る必要がある。2ドアのスポーツカーでは販売量は期待できない。
そこで選択されたボディタイプが、スポーツカーらしい低く構えたプロポーションながら4枚のドアを備えるという4ドアクーペである。そしてポルシェの4ドアモデルとしては最も911に近い、非常にポルシェらしいスタイリングを与えた。つまり、このようにして誕生したタイカンは4ドアながらいかにもポルシェ、という佇まいのモデルとなった。
スタイリング的に他モデルとの差別化も十分で、一目で「ポルシェのBEV」ということがはっきりわかるモデルとなった。ポルシェというイメージに憧れつつBEVによる先進・環境派イメージも合わせて表現したい人のニーズと合致したのである。