産経社説はオリンピックを賛美するだけなのか

産経社説は「無観客が、日本にとって大きな損失となったことは間違いない。だが、選手たちは連日の熱戦で観客席の空白を埋めた。誠意に満ちた『おもてなし』で、海外選手団から好評を得たボランティアも後世に残る財産だ」とも書き、こう指摘する。

「開幕前は『観客のいない五輪に意味があるのか』との懸念もあった。それでも、大会を通して国内の歓喜は途切れず、世界からは賛辞が寄せられた」
「世界で何十億人もの人々が、テレビやインターネットで観戦したことも忘れてはならない」

オリンピックには特有の高揚感がある。それゆえ、多くの人々を感動させる。沙鴎一歩もテレビ観戦で熱戦を繰り広げた選手たちの試合を見たり、試練に耐えてきた裏話を知ったりして目頭が熱くなることが度々あった。しかし、新聞社説を書く以上、論説委員はそんな感動ばかりでは読者を説得できない。物事の本質を見抜く洞察力と冷静な分析力がなくてはならない。

東京五輪の開催と感染急拡大の関係には一言も触れず

産経社説は最後にこう主張する。

「熱戦に心を動かされた経験を、余すことなく後世に語り継がなければならない。24日からはパラリンピックが始まる。五輪の熱気を冷ますことなく、選手たちの戦いを最後まで見守り、支え続けたい」

オリンピックは素晴らしいという賛美一辺倒の社説だった。「五輪の舞台に集った全ての選手たちが、この夏の真の勝者だろう」と美辞麗句も並べる。東京五輪の開催と感染急拡大の関係には一言も触れていない。今後、ますます医療体制は逼迫ひっぱくしていく危険性がある。産経社説はどう受け止めているのか。読者はそれを知りたいはずだ。

ちなみに、毎日新聞(8月9日付)の1本社説は「古い体質を改める契機に」との見出しを立てながら「政権浮揚に五輪を利用しようとするかのような姿勢が国民の反発を招いた」と指摘し、開催したことに懐疑的である。また読売新聞(同日付)の1本社説は「輝き放った選手を称えたい」との見出しを付け、開催を支持していた。

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