「ワクチンで一発逆転」を祈っているだけ

医療体制の整備だけではない。本来、政府がやるべきことはたくさんある。

例えば、本気で人流を減らそうと思えば、欧米諸国のように「ロックダウン」に踏み切るなど厳しい措置を取ることも考える場面が出てくるかもしれない。だが、菅首相はそうした準備を言下に否定した。7月30日の会見でのことだ。

記者が、ロックダウンを可能にする法整備の必要性について検討する考えはあるかと聞いたのに対し、菅首相はこう答えたのだ。

「日本においてロックダウンという手法というのですか、そうしたことはなじまない、私はこのように思っています」

その上で、こう付け加えた。

「飲食に重点を与えての対策だとか、そういう対策で日本はやってきたのですけれども、今、ワクチンが明確に効くというのは日本でも結果が出ていますから、一日も早く、一人でも多くの方に接種できるような、そういう体制をしっかり組んでいきたい。ここが一番大事だと思っています」

つまり、緊急事態宣言で「飲食の自粛」など、これまでやってきたことよりも、ともかくワクチンだ、というのである。逆に言えば、ワクチン接種が進めば状況が劇的に改善する「ゲーム・チェンジャー」になるとただひたすら祈っている様子なのだ。もちろん、ワクチン接種が進めば、それで感染が終息する可能性はある。

写真=iStock.com/Yuki MIYAKE
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法整備に着手しておくのは当然のこと

だが、ワクチン頼み一辺倒になり、他の手を打たないのは、国の指導者の態度としていかがだろう。原子力発電の「安全神話」一辺倒で、万が一の事故リスクから目をそらしてきたのと同じではないか。ワクチンが効かない変異株が登場するリスクもささやかれる中で、医療崩壊を避けるために病床使用の割り振る権限を知事や大臣が持つための法改正や、人流を抑える「ロックダウン」を可能にする法整備などに着手しておくのは当然ではないのか。少なくとも国会でそうした議論を始めなければ、危機に対応することは難しい。

知事会などはお盆の時期の帰省を見合わせるよう求めている。だが、無策を繰り返す政府の声に真剣に耳を傾ける人の数は確実に減ってしまっている。首都圏から全国へと若者の人流が拡大すれば、感染力の強いデルタ株を全国にばらまく結果につながる懸念が強まっている。医療機関の少ない地方での感染拡大は重症化や死者の増加に拍車をかけることになりかねない。

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