「原則自宅療養」なら明らかに撤退戦だ
厚生労働省が8月2日に、感染者の多い地域では原則、入院対象者を重症患者や特に重症化リスクの高い人に絞り込み、入院しない人を原則自宅療養とする方針を公表したのだ。これまで「原則」だった入院や宿泊療養を自宅療養に変更したのである。感染者数が急増し、医療現場がひっ迫し始めていることから、重症者や重症化リスクの高い人に優先的にベッドを割り当て、その他の人は自宅で待機してもらうという、明らかに「撤退戦」だった。
この方針には真っ先に野党が噛み付いた。
国会で質問に立った立憲民主党の長妻昭氏は「入院すべき人ができない状況であり、人災だ。全国の医療関係者に結集してもらい、宿泊療養を大幅に拡充する方向に、方針を整えるべきだ」と政府を追及した。菅首相は会見で、「重症患者や重症化リスクの特に高い方には、確実に入院して頂けるよう、必要な病床を確保します」と火消しに回ったが、批判の声は燎原の火のように広がった。連立与党の公明党のみならず、自民党内からも方針撤回を求める声が上がったのだ。
追い込まれた田村憲久厚労相は8月5日の国会答弁で、「中等症は原則入院だ」と再度の方針転換と取れる発言をしたが、立憲民主党の石橋通宏議員に「(都道府県などへの)事務連絡を撤回して国の基準を出し直さないと大混乱に陥る」と突っ込まれた。国の対応はまったく腰が据わっていない。
医療機関のひっ迫は予想されていたことだ
実は、感染爆発が起きれば、医療機関がひっ迫することは当初から予想されていた。その対策が必要だとされていたにもかかわらず、政府は手をこまねいていたのである。
もともと感染症法では、新型コロナなどの陽性者が確認されると、軽症や無症状でも入院が原則だった。今年2月に感染症法が改正され、「宿泊療養」や「自宅療養」が法的に規定されたが、それは感染症患者を「隔離」する場所を病院以外に定める視点から出されたもので、そこでの医療提供を保証する観点からではなかった。都道府県知事に、「宿泊療養・自宅療養者に対して食事の提供・日用品の支給など、市町村長と連携する努力義務を課す」としているだけで、医療提供体制はあくまで病院や医師の「協力」が前提になっている。都道府県知事には医療機関に対して、病床を提供するよう命令することもできない。