震災後の10年間の「不作為」がもたらした必然

再生エネを系統網に大量に流すには送電網の増強も不可欠だ。原案には東北地方の日本海地域など洋上風力の建設計画がある地域から電気を使う場所に運ぶための「海底の長距離送電線」を検討することが盛り込まれた。

電力広域的運営推進機関は地域間送電網の容量を現在の7割増の最大1600万キロワット分増強する必要があるとみる。50年に洋上風力発電を4500万キロワット導入する想定で、必要な投資額は最大4.8兆円とはじく。

北海道や九州と本州を結ぶ送電網の巨額な費用をだれが出すのか。自由化で疲弊する大手電力、財務基盤の脆弱な新電力、どちらも難しい。政府がある程度の資金を負担するにしても、投資回収のために電気料金の引き上げは避けられない。しかし、肝心の電気料金の引き上げについては、秋に衆院選を控えていることもあり、具体的な言及はない。

電力大手はこの夏の電力不足への備えから火力発電を稼働させるため石炭の購入を増やしている。しかし、新型コロナウイルス感染から経済回復した中国が自国での生産を抑えた分、海外からの購入を増やしており、指標となるオーストラリア産のスポット(随時契約)価格は約13年ぶりの高値をつけるなど、電力会社の負担は増すばかりだ。

政府が「脱炭素を進めろ」と叫ぶ中で、足元の電力不足を防ぐために石炭に依存しなければならない――。そんな日本の現状は、東日本大震災後の10年間の政府の不作為がもたらした必然でもある。

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