エネルギー基本計画が「数字合わせ」と批判されるワケ
経済産業省が公表した新しいエネルギー基本計画の原案は2030年度の総発電量のうち、再生可能エネルギーで36~38%を賄うというのが柱だ。現行の目標は22~24%。現時点でのほぼ倍となる。原子力は現行目標を据え置き22~24%。温暖化排出がでない水素やアンモニアによる発電は1%だ。一方、火力は41%と現行計画の56%から15ポイント減らした。
再生エネや原子力など脱炭素の電源は合計で59%になる。再生エネの内訳は太陽光が15%、風力で6%、水力で10%などを想定。原案には「再生エネ最優先の原則で導入を促す」と明記し30年度の発電量を3300億~3500億キロワット時に引き上げる。
「すでにこの数字は4月時点で決まっていた」と経済産業省の幹部は打ち明ける。ここでいう「4月」とは、アメリカのバイデン大統領が主催した気候変動サミットをさす。菅首相はこの場で温暖化ガスの2030年度の排出を、13年度に比べて46%削減すると表明した。
各メディアが今回のエネルギー基本計画を「数字合わせ」と批判するのは、同計画に盛り込んだ再生エネの電源比率36~38%は、この4月の数字を「逆算」して出したものだからだ。
国土面積あたりの太陽光導入量は既に主要国で最大
各省庁から積み上げた数字では36~38%には届かない。国際公約ともなった4月の「30年度に13年度比46%減」を実現するためには「背伸び」をするしかなかったわけだ。
再生エネについては、洋上風力への期待が高まっているが、環境への影響調査などで建設には8年がかかるとされる。このため、30年度の目標にむけて洋上風力の本格普及は間に合わない。このため、再生エネの比率をあげようとすると、太陽光発電に頼らざるを得ない。ただ、国土面積あたりの日本の太陽光の導入量は既に主要国の中で最大で、パネルの置き場所は限られる。
太陽光を巡ってはパネルの設置を巡って、最近になって住民とのトラブルが相次いでいる。地方自治研究機構によると、パネル設置業者に対して自治体に届け出をしたり許可を得たりするよう義務づけたり、制限区域を設けたりした規制条例の件数は7月半ば時点で150もの市町村と兵庫や山梨など4県の計154条例にも及ぶ。2014年は2件、19年は43件だったが、この1~2年で急速に増えている。景観への影響や斜面に無理に設置したため、豪雨などでパネルが崩落するなどのトラブルが相次いでいるためだ。
再生エネの大幅な積み増しは小泉環境相の意向が優先された格好だが、環境省のなかですら、再生エネを推進する部署と自然保護を重視する勢力が対立している。