「だれも血を食べてはならない」
もう一つ食べてはならないとされるのが、「血」である。「レビ記」の第17章第12節では、「だれも血を食べてはならない」とされている。
その前の部分では、血を食べてはならない理由を神が説明している。これは珍しい。「わたしが血をあなたたちに与えたのは、祭壇の上であなたたちの命の贖いの儀式をするためである。血はその中の命によって贖いをするのである」というのである。そして、食べてよい動物でも、血抜きをしなければならないとされている。
理由が分かりにくいタブーとしては、「出エジプト記」第23章19節にある、「あなたは子山羊をその母の乳で煮てはならない」というものである。
なぜこうしたタブーがあるのか。いろいろと説明が試みられているものの、はっきりしたことは分からない。
重要なことは、神が命じたことを実践することで、その人間は神聖な存在になるということである。「レビ記」第11章44節では、「わたしはあなたたちの神、主である。あなたたちは自分自身を聖別して、聖なる者となれ」とある。
アイデンティティーを守るため、神の教えに忠実になった
ユダヤ教を信仰するユダヤ人は国を失い、世界各地に散って生活するようになった。それは、戦後、ユダヤ人国家としてイスラエルが誕生するまで続く。そうした状況を「ディアスポラ」と呼ぶ。
ディアスポラの状況のもとで、自分たちのアイデンティティーを守るには、忠実に神の教えに従い、「聖なる者」であり続けなければならない。
そこから、ユダヤ教の教えにもとづくユダヤ法、「ハラハー」に従って生活するというスタイルが生まれた。
ハラハーは、トーラーを基盤としている。それは、イスラム法が『クルアーン』と『ハディース』を基盤としているのと同じである。
神の命じたことをどのように解釈し、それをどう実践するかについては、ユダヤ教の歴史のなかで研究が進められていった。
その結果、「あなたは子山羊をその母の乳で煮てはならない」という神のことばにもとづいて、肉類と乳製品を一緒に摂取しないという規定が確立された。
肉類と乳製品の混在を防ぐためには、それぞれを別の冷蔵庫に入れるとか、使う鍋や食器を別にするということも必要になってくる。
これに従えば、チキンの入ったクリームシチューなどはだめだということになる。チーズバーガーもだめだ。
そうなると、ユダヤ教徒が、日本などユダヤ教徒以外の人間が数多く住んでいるところに旅行するときには、外食をせず、自分たちで食べ物を持参することになる。
そのため、イスラム教のハラール認証と似た「コシェル認証」が行われている。おそらくコシェル認証の方が先だろう。コシェル認証は、アメリカで1924年からはじまっているからである。