堀は選手再生に手腕のあるプロコーチの森守洋に自分の身を預けた。それができたのは堀自身が発した最初の問いかけにあった。

「森さん、私、イップスなんでしょうか?」
「そんなことはないよ。こっちゃんは絶対にイップスじゃない」

こっちゃんは堀の愛称だ。森の言葉で堀は救われた。

「そう言い切ってくれて、とてもすっきりしたんです。それまで、私、意固地になって、誰の言うことも聞けなかった。私の悩みなんて誰もわかるはずはないって。でも、この人ならわかってくれるかもしれない。この人についていこうと思いました」

「私はゴルフが好きなんだ」という気づき

森は手首を捻って無理矢理ドローボールを打とうとしていた堀のスイングをシンプルなものに戻したいと考えた。しかし、一度身についてしまった悪癖はなかなか直らない。レギュラーツアーは10試合に出場できたが9試合予選落ち、ステップアップツアーでも成績がでなかった。

写真=大森大祐(書斎のゴルフ)
20歳の時は恐れを知らないゴルフで日本女子オープンで2位になる。

一寸先が真っ暗なまま月日だけが経っていく。しかし、堀は明日を夢見て練習を続けた。そんなとき、同じく森からコーチを受けている原江里菜から「練習しているってことはゴルフが好きだって証拠。だったら諦めないで頑張ろう」声をかけられた。

原は堀の9歳年上。プロになった歳に初優勝するなど活躍するが、その後ひどいスランプとなり、森によって立ち直り、15年に復活優勝を遂げていた。だからこそ、堀は原の言葉を信じることができた。

「私はゴルフが好きなんだ。好きだからこそ辞められない。だったら練習するしかない」

好きなことなら努力できる。厳しいことに立ち向かっていける。堀は好きなことができている幸せを感じ取っていた。

森の教えの真骨頂はボールをしっかりと捉えるということである。そのために「枕落とし」をさせる。枕を頭の上から右足元に叩き落とすというものだ。

この感覚をスイングに採り入れるとボールを叩きつけることができる。ドローボールを打とうとしてすくい打ちになっていた堀がボールを強くヒットできるようになっていった。外国ゴルファーが言う「ソリッドコンタクト」の達成である。

コーチが見抜いた堀の弱点

森は証言している。

「こっちゃんはドローを打とうとしていたけれど、実はフェードタイプのゴルファーです」

ドローは飛距離が出る打法ゆえに、飛距離が欲しい堀は敢えて打とうとしていたに違いない。それも日本女子オープンで自分より年下で体の小さな畑岡奈紗に飛距離で負け、日本女子オープンというメジャーを逃してから飛距離に固執するようになった。

しかしこれがスイングを崩すもとになったのは間違いない。飛距離の欲求ほど恐ろしいものはない。悪魔の誘惑である。