「ゴー!」絶叫に後押しされた最高のショット
両者譲らず14アンダーのままプレーオフに突入。
ここでもふたりは完璧なゴルフで全くの互角、プレーオフ3ホール目に若林のティショットがわずかに曲がりグリーンを狙えない。堀はフェアウェイをヒット。ピンまでは163ヤード。6番アイアンを握った。
周囲の雑音が消え、ピンだけに的が絞れた。ライフルの照準器で獲物をピタッと捕らえた瞬間だった。
「ゴー!」。アイアンを一閃した堀から甲高い叫びが発せられた。バンカー越えの無謀とも言えるピン狙いは、その絶叫に後押しされ、グリーンに届いた。ピン手前3mとなる最高のショットだった。
その強気の攻めに若林は遂に鉄壁の城を明け渡した。若林はボギーを叩き、堀は楽にパーで収めて勝利をもぎ取ったのである。
優勝目前の堀を襲ったケガとスランプ
堀琴音は2014年にプロとなる。姉・奈津佳が2013年に日本女子ツアー最少ストローク優勝を遂げたことに大きな刺激を受けていた。
姉同様にプロ転向翌年にステップアップツアーに優勝してシードを獲得、16年には日本女子オープンに準優勝、17年もサントリーレディスで2位となるなど、優勝は目前の期待の若手だった。ところが、17年のシーズン終盤の大会で、初日3位タイと好発進の翌日の2番ホールで突然ショットが曲がり予選落ちを喫する。
「アイアンショットが左崖下に落ちてOBになった」
たった1打の失敗が心に傷を作る。なぜショットが左に曲がったのかがわからない。もやもやする気持ちが消えないままにシーズンが終わり、オフの練習は暖かいタイで合宿。すでに傷口は大きく開き、ショットは左右に大きく曲がった。
「何をやっても真っ直ぐに飛ばない」。悪いときには悪いことが重なる。深いラフに飛び込んだボールを怒りにまかせて強打すると、手首に異様な衝撃が生じた。手首まで痛め、ショットは益々思うようにならなくなった。
「私、イップスなんでしょうか」
こうして始まった2018年は開幕戦から予選落ちが続き、34試合に出場して27試合予選落ち、棄権が2試合あり、予選を通ったのはわずか5試合だけ。惨状は目を覆うばかり。当然シード権を失った。
「ゴルフをするのが怖くなった。眠れずに夜を過ごして朝になる。そんな日が続きました。もうゴルフは辞めたい。予選落ちする度にそう思うようになりました」
堀琴音引退。そんな噂が囁き出される。しかも「琴音はイップスだよ」という声まで耳に入ってくる。
「ゴルフを辞めたいけれど、このまま終わっていいのかなって。ゴルフを辞めても自分の人生は続くわけでしょう。だったらやるだけやってすっきりと終わりたい。そう思ったんです」