天才的なライティングのセンス

ナカムラクニオ『こじらせ美術館』(ホーム社)

カラヴァッジョは2週間絵を描くと、1、2カ月ほど酒場を渡り歩きケンカに明け暮れるという日々を送りながら、次々と傑作を生み出す。家族や安定した生活を失った代わりに、超絶技巧の画力を身につけたのだった。

いつしかカラヴァッジョは、光を自在に操る画家となった。肌の質感、表情、感情までもリアルに浮き上がらせるその天才的なライティングのセンスは、現代の映画や写真にも影響を与えている。

人物の左斜め上から強いライトを当て、影を強調する演出は、物語やモチーフに強いインパクトを付けたい時に使われる。暗いスタジオでスポットライトを人物に斜めに当てると、顔も体も半分が影になるので、被写体の印象が強くなるのだ。カラヴァッジョが生み出したこの照明術は、現在でも映画やスチール撮影におけるライティング技法のひとつとなっている。

レンブラントやフェルメールにも深い影響を

この技法は、一般的には「レンブラント・ライト」と呼ばれている。17世紀オランダの画家レンブラント・ファン・レインが、カラヴァッジョの影響でこの明暗法を確立したのだ。映画『ゴッドファーザー』でマフィアのボス役、マーロン・ブランドが登場するシーンは、ブランドを真上から照らすレンブラント・ライトで有名だ。それほどまでに多くの芸術家が彼の影響を受けた。このようなカラヴァッジョ風の絵は「カラヴァッジェスキ」と呼ばれている。

オランダのレンブラント、フェルメール、スペインのベラスケス、フランスのラ・トゥール。実は、みんな「カラヴァッジョ・チルドレン」なのだ。その光の系譜は、現代の画家にも脈々と受け継がれている。まさに、美術史における光の系譜は、カラヴァッジョから始まるのだ。

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