「伝統的な男らしさと女らしさ」の良い部分を合わせ持つヒーロー
第4話では、市場で迷子になったセリが、子どもの頃、母に海辺に置き去りにされたことを思い出して不安を感じていると、アロマキャンドルを目印に掲げたジョンヒョクが探しに来てくれます。第5話では平壌のホテルで、かつてのお見合い相手と再会したセリが、彼と一緒にエレベーターに乗ろうとすると、ジョンヒョクが追いかけてきてボディガードのように守ろうとします。
第6話では、空港に向かうセリの車を秘密警察の一味が襲うと、ジョンヒョクがバイクで並走して守ろうとした後、セリの代わりに銃で撃たれます。このシーンを指して友人は「トム・クルーズよりかっこいい!」と評していました。私も同感ですし、アジアのコンテンツがハリウッドを超えた瞬間として歴史に刻まれると思っています。
ここまで、全話のラストシーンで、セリの危機をジョンヒョクが救う構図になっています。こうして、セリを徹底的に守ろうとするジョンヒョクの王子様的なふるまいが、視聴者に刷り込まれます。そのため、食事作り、身の回りの世話といったいわゆるフェミニンな行動を取っても、ジョンヒョクは相変わらず「王子様」に見えるのです。このように「伝統的な男らしさと女らしさ」の良い部分を合わせ持つのがリ・ジョンヒョクという人物像の魅力でしょう。
しかし、第7話以降はこの構図が逆転し、セリがジョンヒョクを助ける場面がたびたび出てきます。銃撃されたジョンヒョクに輸血をするために北朝鮮脱出の機会を諦めたり、ジョンヒョクの盾になって自分が撃たれたり。前半、ヒーローからヒロインに与えられた保護や自己犠牲が、後半、ヒロインからヒーローに「利子付きで返済」されていく構図です。