「ハマグリのガソリン焼き」が象徴する食卓を囲む喜び

数ある食事シーンの中でも特に印象的なのは、ジョンヒョクの家の庭で、彼の部下である中隊員4人とともに、セリが「ハマグリのガソリン焼き」を食べる場面です。ござの上に並べたハマグリにガソリンをかけて火をつけ、中身に火を通した後、熱い殻でやけどしないよう、軍手をつけて貝を持ち、殻をあけて中身をすすって食べ、殻に焼酎を入れて飲んでいました。

当初、セリは「貝はブイヤベースでしか食べたことがない」「お酒はソーヴィニヨンブランしか飲まない」と、この素朴な料理に抵抗感を示します。ところが、思いのほか美味しく、喜んで食べながら、中隊員たちとのおしゃべりに夢中になるのです。その様子を少し離れたところから見て、嬉しそうにしているジョンヒョクの優しいまなざしが心に残ります。

一緒に食卓を囲むこと、楽しく話しながら食べることの重要性は、この後も繰り返し描かれており、本作の主要テーマのひとつと言えます。

ハマグリの場面の直後に映し出されるのが、ソウルにあるユン家の食卓です。大理石とおぼしき白い石造りのダイニングルームで豪華な食卓を囲む、家長の父親、正妻、息子ふたりとその妻たちがいます。彼らは血縁や婚姻関係で結ばれ、法的にも社会的にも認められた正式な家族です。でも、豊かな暮らしをしているのにまったく幸せそうには見えません。後に父親が、相続や事業の後継に関わる話題がなければ、子どもたちが実家に食事にすら来ない、と嘆くシーンがあります。要するに彼らはお金だけでつながった関係なのです。

白い食器と空色の布が置かれたテーブル
写真=iStock.com/NataBene
※写真はイメージです

「愛は血縁とは無関係である」というメッセージ

一方で、血縁がないどころか一緒にいることが違法になる、セリとジョンヒョク、そして北の中隊員たち。セリが彼らと素朴な食べ物を美味しく楽しそうに食べ、しりとりに興じている様子は実に楽しそうです。別のシーンでセリは、ご飯のおこげに砂糖をつけて食べるという超庶民的なおやつをつまみながら「(韓国では)“少食姫”っていうあだ名までついた私が、おこげにハマるなんて」とぼやきますが、その様子はとても幸せそうです。

家族は「愛」の共同体とされます。その「愛」とは一体何なのか。このドラマが伝えるメッセージは、「愛は血縁とは無関係である」ということです。また、愛とは法律婚によって生み出されるものでもない、ということを描きます。正式な婚姻関係にあるセリの両親が確執を抱えながら離婚はできず、食事の際も離れたところに座り、心が通わない状態にあるのに対し、ドラマの最後まで結婚はしないセリとジョンヒョクは、強い絆で結ばれています。そしてセリを守るため、命をかける北の中隊員たちも、家族同然の愛情で結ばれています。