そう考えれば、SCiBの急速充電・長寿命という特性はアップルにとって非常に魅力的な蓄電池となる。これまであまり注目されてこなかったSCiBが一躍脚光を浴びることになったのも十分理解できる。加えて、安全性、高出入力、低温性能、広いSOCレンジといった特徴も効果的に活きてくるであろう。
さらにロイター通信の記事によると、アップルはバッテリー内の各セルをかさ上げし、電池材料を収納するポーチやモジュールを排除することにより、バッテリーパック内のスペースを開放するという。これによってより多くの電池材料の搭載でき、より長い航続距離を実現させることが可能になるという。
航続距離に関してSCiBには欠点があるとはいえ、三菱の「i-MiEV」シリーズなどで活用されてきた実績がある蓄電池だ。仮に今回のアップルのモノセル設計報道が真実であるならば、SCiBの低密度問題は解消に向かう公算が高い。
日本の蓄電池は大復活できる
アップルの動向に関係なく、今後EV化がより一層進展していくことは現在の各国の政策を見る限り間違いない。充電インフラの拡充と車の電動化に合わせて、車のスマート化も同時並行で進み、OSによる効率化が図られることも確実だ。
いまEVは、航続距離を延ばすこと、およびコストダウンが競争の主戦場になっている。それが一定程度決着すれば、OSの進展やインフラの拡充が起きたとき、どのような蓄電池が最適なのかという論点が再度浮上する。エネルギー効率が優れた酸化ガリウム基板の次世代半導体の実装が先に到来し、蓄電池の容量合戦に終止符が打たれる可能性もある。
その時、SCiBは「日の丸蓄電池」の主軸となるだけでなく、EVに最も適した蓄電池になりうる。もちろんコストという課題も存在するが、なんといっても寿命、充電の論点では他を圧倒しており、安全性も指折りである。他を圧倒するこのSCiBは、世界最強の蓄電池といってもいいのではないだろうか。
このような素晴らしい技術を日本企業が有していることは誇らしく、ぜひこうした技術をいかし、世界と勝負をしていってもらいたい。