SCiBの特性:長寿命と急速充電

蓄電池は「リチウムイオン電池」が基本形だ。正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで充電や放電を行う二次電池だ。

SCiBは負極にチタン酸リチウムを採用することで、安全性、長寿命、急速充電、高入出力、低温性能、広いレンジのSOCレンジと6つの優れた性能を持ち合わせ、EVに必要な論点をこれでもかというくらいに優秀に網羅している蓄電池になり得た。

特筆すべきは長寿命と急速充電の特徴だろう。

リチウムイオン電池は充放電の際に5~15%の体積の変化を伴うが、これが材料の損傷などを招いて容量を低下させ、電池の寿命を縮める。その点、SCiBの場合は2万回の充放電を繰り返しても体積の変化がほとんどなく、劣化しにくい。

一般的なリチウムイオン電池の充放電サイクルが4000回程度というものが多い中、SCiBの充放電サイクル寿命は1万5000~6万回と他を圧倒している。

充電に関しては、6分間で80%以上の急速充電が可能だ。2017年の試作段階で、6分の充電で走行距離320kmを実現し、旧来のリチウムイオン電池の3倍の充電効率を達成した。これは小型EVでの試算であるが、容量の大きい蓄電池搭載に換算した場合、10分強で600kmを走行できることになる。

スーパーチャージャーという超急速充電を売りにするテスラ社のEV(蓄電池はパナソニック、CATL、LGのいずれか社製)ですら30分ほどの充電を要することを考えれば、このSCiBの急速充電がいかに優れているか分かる。

唯一の欠点は「航続距離」だが…

ただ、性能面で唯一欠点がある。それはエネルギー密度の低さだ。目下、EVは蓄電池の大容量化が進んでいるが、それが航続距離を延ばし、ガソリン車に対抗をするために取られているいわば適応策である。

SCiBの場合、エネルギー密度が低いため、同じ体積の電池を積んだとしても1回の充電で走行できる航続距離が短くなってしまう。EVの命運は航続距離どれだけ延ばせるか、にかかっているのは先述の通りだが、これはSCiBの致命傷だった。目下のEV戦線においてSCiBが主役に躍り出なかった理由がここにある。

しかし、アップルのEV戦略を考えた場合、この欠点は決して致命的なものとはならない。むしろ「SCiB」が車載蓄電池として最もふさわしい蓄電池になる。それはなぜか。ポイントは2つある。「OS・クラウドサービスの導入」と「充電設備の拡充」だ。この2点が、SCiBの唯一の欠点を補完する状況がやってくる。

これからの車はスマートフォンやPCのように、アンドロイドなどのOSが搭載される「スマートカー」が当たり前になる。自動運転のほかに、利用者は音声アシストで操作を行いながら、クラウドと連動をした各種サービスを享受する。