今後、普及が見込まれる電気自動車(EV)にはどんな蓄電池が採用されるのか。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「車載電池では上位7社中6社が中韓勢で、現状では日本勢は苦しい。しかし日本勢が強みをもつ『SCiB』がアップルカーに採用されれば、勢力図は一気に変わる可能性がある」という――。
AR技術を使用して、自動車設計の分析を行うエンジニア
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世界が注目する「日の丸蓄電池」

6月11日から英国で開かれたG7首脳会合では、気候変動対策や温室効果ガス排出削減がテーマとなり、「脱炭素」は2021年のメガトレンドになっている。

前回記事で紹介した自動車産業のEV開発競争は、まさに脱炭素の主戦場の一つだ。とはいえEVの命運は、車載される蓄電池の進化にかかっていると言っても過言ではない。各国政府が巨額の予算で投じて蓄電池の開発を支えている理由はここにある。

EVのネックは「航続距離」だ。現時点では、延びてきたとはいえ、ガソリン車よりEVは航続距離で不利とされ、EVの命運は航続距離どれだけ延ばせるか、どれだけ軽量で多くの容量を車載できるかにかかっている。EVを製造している各社は、競争力のある車載用蓄電池を求めて蓄電池メーカーと提携し、その課題を克服しようとしのぎを削っている。

そんななか日本の蓄電池が世界から注目される出来事が起こった。

その蓄電地とは、東芝の「SCiB」だ。

“アップルEV”報道で大注目の東芝「SCiB」

契機は、2024年にも発表すると目されている米アップル社のEV、通称「アップルカー」に関する報道だった。どの自動車メーカーと組むのか、どの蓄電池を採用するのかに一気に関心が集まった。その候補に「SCiB」の名が挙がったのだ。

アップル社からの公式な発表はなく、報道ベースの情報にすぎない。それに「SCiB」も、他の蓄電池と同じく航続距離の課題を抱えている。車載蓄電池としての実績は、三菱の「i-MiEV」シリーズや国内外の電気バスにとどまる。

そのうえ調査会社「テクノ・システム・リサーチ」によると、2020年の車載電池の出荷量(要領)は1位が中国・CATLの26%、2位が韓国・LG化学の23%、3位がパナソニックの18%。上位7社中6社が中韓勢で、日本勢の後退が著しい。

しかし、アップル社の描く「戦略」を踏まえれば、SCiBが有力候補の一つと目されるのも納得がいく。さらに私は、1980年代に日本の半導体が世界シェアの半数を占めたように、「日の丸蓄電池」が大逆転できる可能性が高いと考えている。本稿でその理由を紹介しよう。