自分の「最適な睡眠時間」を知るにはどうすればいいか

大阪回生病院睡眠医療センター部長の谷口充孝医師も、「市販の睡眠改善薬というのは、それほど“いい薬”ではない」と話す。

「医師であれば抗ヒスタミン剤をかゆみが強いときには使いますが、睡眠薬としては処方しないものです。一般的には安全性が高いから市販薬となるわけですが、睡眠薬の場合はそうでもありません。しかも市販の睡眠改善薬に含まれる抗ヒスタミン薬には、抗コリン作用もあります。これは、記憶に関連するアセチルコリンの働きを抑える作用で、そういった作用を含む薬剤を服用すると、認知症のリスクが上昇するというデータもあるのです」

一時期の不眠であれば、「仕方ない」とわりきることも必要だ。「睡眠負債」という言葉がブームになり、“寝不足は悪いもの”という意識が広まった。だが、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の櫻井武教授によると「睡眠不足が多少続いても、その後に十分な睡眠をとればリセットできる」という。

「睡眠負債の定義に関して、みなさんが理解されているような、通常の睡眠が足りない、(睡眠時間の)“負債”という考えもあります。一方で、“睡眠圧”という意味もあるのです。長い時間活動するほど睡眠圧が強くなって、その“圧”によって眠れる。睡眠圧という意味なら、睡眠負債があるからこそ眠れるという側面もある」

「睡眠の質を高めること」を目標にするのではなく、「日中の覚醒」に目を向けることが大切、と櫻井教授は言う。

「睡眠の目的は睡眠自体ではなく、目が覚めた後の覚醒のクオリティを高めること。たしかに睡眠は大切ですが、その内容や時間を意識しすぎると、こだわりが生まれ、脳が覚醒して『眠れない』ことにつながります」

電車などの居眠りでは「夜の睡眠」の不足は補えない

巷の情報に振り回されず、自分の最適な睡眠時間を知っておこう。

昼間、眠気に襲われず本来の作業がしっかり行えれば、あなたの睡眠時間は足りている。逆に日中に眠くて仕方がない、または休日にいつもの起床時間より30分以上遅く起きてしまうのであれば、睡眠時間が不足している。

寝不足であれば「昼寝」で補いたいが、20分以内に起きること。「睡眠慣性」といって、深い睡眠に入って脳の機能を落とすと、覚醒に時間がかかり、昼寝後の目覚め感がかえって悪くなる。

「夜間の睡眠にも支障が出ます」と、櫻井教授。

「睡眠は、浅いステージから深いステージへと移行します。最も浅いステージはほんの数分で終わり、次のステージも10分程度。寝つくのに5分かかるとして、ここまでで合計20分程度。そのあとは深いノンレム睡眠になります。昼寝でそこまで入ってしまうと、脳は本来の7時間かけて行う睡眠のモードになってしまうのです」

電車などの居眠りであっても、長時間眠らないように気をつけたい。