背景には日本特有の食生活
もしかすると、国民のあいだに広く浸透している宗教的な教訓のおかげで長寿なのかもしれない。つまり「物質より精神」を重んじる考え方が功を奏している可能性がある。しかし、こうした日本人の思考の基本にあるのは、宗教心というよりは精神性かもしれない。
古い文化を継承している人口の多い国はほかにもあるが、伝統的なものの考え方が人々の胸に深く沁み込んでいる国として、日本に比肩するところはない。
さて、精神的な信条を除けば、長寿の第一の理由は日本特有の食生活ということになる。では、いったいどんな点が優れているのだろう? 日本人が大好きな食べ物や調味料に注目しても、あまり役には立たない。
たとえばしょうゆは、ミャンマーからフィリピンにいたるアジア大陸の大半で、その土地独自のしょうゆがあるし、豆腐も同様。少し範囲は狭くなるが、納豆でさえ、世界ではほかにも食べられている地域がある。
また日本の緑茶は、チャノキの葉を摘んですぐ熱処理を加えて茶葉にしたものだが、チャノキは中国原産である。日本の茶葉とは色合いが微妙にちがうものの、中国ではいまでも茶葉を生産していて、1人当たりの消費量は減っているとはいえ、その大半を国内で飲んでいる。
アメリカ人の人工甘味料摂取量は日本人の2.5倍
ところが、フードバランスシートを見ると、平均的な日本人、フランス人、アメリカ人の食生活におけるたんぱく質・脂質・糖質の主要栄養素の割合に大きな差があることがわかる。食事から摂取する全エネルギーに占める動物性食品の割合は、フランスで35%、アメリカで27%だが、日本ではたったの20%だ。
このように、日本人の食生活には植物性食品を多く摂取する傾向があることはわかるものの、脂肪(植物性、動物性を問わず脂質)由来のエネルギー摂取、さらに砂糖や人工甘味料由来のエネルギー摂取の割合のほうがよほど重要な意味をもっている。
アメリカ、フランスの両国では、脂肪由来のエネルギー摂取が日本のほぼ2倍(正確には1.8倍)である。そのうえ、アメリカ人は1日に日本人の2.5倍近くの砂糖や人工甘味料(アメリカでは果糖ブドウ糖液糖が主流)をたっぷりと摂取していて、フランス人もやはり日本人の1.5倍の量を摂取している。
こうした数値は漠然とした関連性を示しているだけだということをつねに念頭に置くべきだが、そのうえであえていえば、悪影響を及ぼしていると疑われる栄養素を摂取しないようにすれば、やがて脂質と糖質の摂取を減らすことが長寿の秘訣だとわかるかもしれない。