脂肪燃焼の不具合②:鉄不足

タンパク質に次いで大切なのは、「鉄」です。

「脂肪の燃焼機関」自体がタンパク質でできているのに対し、鉄は脂肪の燃焼機関で脂肪を燃やすために必須の栄養素です。

「脂肪の燃焼機関」と書いてきましたが、これは、正確には細胞内の「ミトコンドリア」のことを指しています。ミトコンドリアは、原始的な生物だった段階で細胞内に入り込み、ヒトと「共生」しているもの、とされています。細胞の中に、「ミトコンドリア」という細胞のようなものがあるというイメージから、そう考えられています。

ミトコンドリアの大きさは0.5~10μmで、1つのヒトの細胞の中に数百から数千もの数が存在しています。人間の小さな細胞1つ1つに、無数のミトコンドリアが存在しているのです。

このミトコンドリアの中で、糖質や脂肪酸、タンパク質などが代謝されて、エネルギーに変換されています。タンパク質を糖質に変える「糖新生」というはたらきも、ミトコンドリア内で行われます。

ヒトの全身の細胞の中で、ミトコンドリアが存在しないのは赤血球だけで、それ以外のすべての細胞の中に存在しています。重量でいえば、人間の体重の約10%もの重さを占めているといわれています。とても多いですね。

そして、一般にはあまり知られていないことですが、鉄不足はほとんどの女性と、メタボや生活習慣病やメンタルに問題のある男性の多くに当てはまります。

私の担当編集者たちが自らの血液を医療機関で調べたところ、全員に鉄不足があることが判明しました。とくに女性については、鉄不足ではない人を探すほうが難しいといえます。

それほど、日本は鉄に関しては異常事態になっています。そして、そのことについてまだまだ知らない人が多く、鉄不足と気づかないまま、さまざまな症状に悩まされているのです。

日本人が鉄不足になる「日本固有の事情」

詳しくは拙著『1年で14キロ痩せた医師が教える 医学的に内臓脂肪を落とす方法』にもあたっていただきたいのですが、日本でこれほど多くの人が鉄不足になっているのは、次のような「日本固有の事情」が関係しています。

①食物に鉄を添加していない

欧米では、小麦粉に鉄の添加が義務付けられているのをご存じでしょうか。多くの国で国策として食品への鉄の添加が義務付けられています。しかし日本では、行われていません。これが日本人の鉄不足の一因となっています。

②医療機関でも「異常なし」と判断される

鉄不足が進行すると、頭痛をはじめとする各種の症状が出てくる人が少なくありません。症状が強くなると医療機関を受診しますが、各種検査をしても「異常なし」の診断になることが多いのです。

なぜか。医療機関で採血検査をした際の鉄(とくに貯蔵鉄=フェリチン)の基準値が、日本はアメリカの半分で、そのため実際には鉄不足であり、症状が出ているにもかかわらず日本では「異常なし」と判断されてしまうケースが多いのです。

③植物性信仰などの対策間違い

外来などで「鉄不足です」とお話しすると、「ほうれん草を食べればいいんですね」という言葉がよく返ってきます。これは日本人によくある反応でしょう。

確かに、ほうれん草には鉄が含まれていますが、これは植物性の鉄であって、動物性の鉄とは違う構造をしています。そのため吸収率は、動物性の鉄の「5分の1以下」に過ぎず、ほうれん草を食べるだけではとても十分な量をとることはできません。

それ以外の食物でも、含まれている鉄の量を考えると、食事から鉄不足を解消するだけの鉄を摂取することは現実的ではありません。

④日本の鉄サプリの問題

食べ物で鉄不足を解消できないとしたら、現実的にはサプリメントしか選択肢がなくなります。ところが、日本で流通している鉄サプリは「ヘム鉄」と呼ばれる鉄が含まれているのですが、胃腸にはやさしいものの、鉄の含有量が少ないというデメリットがあります。

ヘム鉄サプリメントを何年も飲み続けたのに、鉄不足がまったく改善しなかった症例を、実際に何例も診ました。そのため、ヘム鉄はその量の少なさから、私は鉄不足の解消にはほぼ結びつかないと考えています。

⑤母親ゆずりの鉄不足

日本のこの状況下の中では、当然ながら、子どもを産む母親のほとんどが鉄不足になっています。母親が鉄不足でも、母体から鉄をどんどん削り取って、子どもへ鉄を与えるように人間の体はできています。

しかしながら、それも限界があります。母体の鉄が枯渇こかつすれば、子どもは当然ながら鉄不足になってしまいます。場合によっては「胎児からずっと鉄不足」ということも、十分にあり得るのです。