ゴッドファーザーが激怒した“大物”の逮捕

プーチン大統領をさらに激怒させたのは、ウクライナ検察当局が5月、ウクライナ親露派政党の幹部で大富豪のビクトル・メドベチュク氏を国家反逆容疑で拘束し、裁判所が自宅軟禁に置いたことだ。プーチン大統領は同氏と親交が深く、同氏の娘の名付け親になっており、ウクライナ親露派の「ゴッドファーザー」だ。

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両国関係が敵対した後も、メドベチュク氏はクレムリンとのパイプ役を務めていたが、ゼレンスキー大統領は「ウクライナの安全保障に破滅的損害を与えた」と攻撃した。同氏が経営する3つの親露派テレビ局も閉鎖処分となった。

これに対し、プーチン大統領は安全保障会議で同氏の訴追に触れ、「ロシアへの脅威が生じており、適当な時期に適切に対応せねばならない」と述べた。発言はソフトながら、マーロン・ブランド演じる映画の「ゴッドファーザー」さながら、報復を示唆する凄みを感じさせる。

米露首脳会談が不調に終わった場合、最悪のシナリオは、ロシアと親露派が軍事攻勢に出て、ロシアが「ドネツク人民共和国」の独立を承認することだ。親露派の支配地区はウクライナ全土のほぼ3%だが、ロシアは「ウクライナ軍の挑発」を口実に軍事介入し、支配地区を広げる可能性も指摘されている。

ロシアは2014年のクリミア併合でも、まず「クリミア自治共和国」の独立を承認し、その後併合に踏み切った。「独立承認」は併合の前段階となり得る。

次に仕掛けるのは「水戦争」?

クリミアとドネツク、ルガンスク両州に続くロシアの「第3の標的」といわれるのが、南東部のヘルソン州だ。

米紙ニューヨーク・タイムズ(5月8日付)は現地ルポで、ロシアがクリミアとドニエプル川を結ぶ北クリミア運河のあるヘルソン州に介入するとの憶測が強まっていると報じた。同州住民は、「ロシアは戦争の準備を終え、ヘルソンを支配する用意を整えているようだ」と述べている。

ロシアは親露派支配地区に強力なテレビ電波送信機を設置し、ヘルソン州一帯にロシアの宣伝放送を流している。一方で、ウクライナ側も運河の防衛体制を強化した。

ヘルソン州はクリミアと隣接し、クリミアの水源になっていた。人口200万人のクリミアは慢性的な水不足に直面するが、ロシアの併合後、ウクライナは水の供給を停止している。今回は両国の「水戦争」の様相なのだ。